<最終節レポート:鈴木
秀幸>
2月にしては暖かい朝を迎えた。
会場に向かう途中、木々の合間からこぼれる日差しにふと足元をみると、黄色い花が咲きかけている。
先日手にした雑誌のコラムの一文が浮かんだ。
『光と影』とつけられたタイトルは、今のインドを紹介する記事だった。
12億の人口を有しいまやIT先進国のこの国は、その歴史的たたずまいを見せる建造物、風景に多くの旅人を魅了する。
記事はこんな始まりだった。
私が学生のころ授業で、ボンベイ・カルカッタと教わったこの地は1990年代に現地語に即して、ムンバイ・コルカタと改められた。
光と影が隣り合わせになる。
高級住宅街をでるとみすぼらしい服装の人々が、瓦礫を手渡しリレーで長い列を成していた。(以下省略)
私も20代のころアジア各国を回る中、同じような風景を何度目にしたことだろうか。
どこかの道端で摘んできたであろう色鮮やかな花を並べ、わずかなお金を手にする少女、
瓜二つの顔で満面の笑みを作り真っ白い歯をのぞかせ手招きする少女。
私のシャツのポケットには黄色い花が1輪覗かせていた。
プロリーグも最終節を迎え、若干ではあるが空気が違う。
私は上位者にインタビューを試みようかと思ったが、遠くから表情を観察することだけにとどめた。
私の本命は中部本部・管野プロ。
もちろん90Pのアドバンテージはもとより、彼の強さはまったく動じないぶれない精神力の強さにある。
これは勝負の世界において、スキルはもちろん非常に重要なファクターであろう。
1番卓は順位順のため、管野、若松、尾澤、森下の組み合わせとなる。
この上位4名の優勝争いに割って入れるのは、2番卓最上位につける爆発力のある石津くらいか。
この中から今年度の優勝者がきまるであろう。
私は手帳片手に管野・若松の間に立った。
1回戦、4人とも表情は硬い。
森下の400・700ツモアガリからの静かなスタートも素晴らしい闘牌の序章にすぎなかった。
壮絶な打撃戦を制したのは前節まで2番手につけていた若松。
管野はまさかの10,000点を割る1人沈み。たった1回で管野が捕まった。
激しい打撃戦になるかの私の予想を裏切り、2回戦、3回戦と大きなポイントの動きはみられない。
森下と若松の状態がいい。
ただ気になるのは、森下の打牌リズムがいつもと違う。
決勝だからなのか、もちろんポイント差がある管野を捕らえるには、高い点を見据えた手組みが必要だが、難しく手作りしているように感じた。
途中素直な手作りならば・・の2,600オールを逃し、森下の勢いも途絶えることとなる。
だれかが抜け出そうとすると、他の3者がそれをゆるさない。
4者が非常に高いレベルの闘牌を魅せているからであろう。
運命の4回戦、親・管野。いつもより高めのトーンで『リーチ!』
一発でツモアガリ4,000オール!
            ツモ ドラ
私は正直これでほぼきまったかと思っていた。
さばきの難しい手。苦しい とドラ のシャンポン待ち。
最初のツモに がいる。勝者の麻雀だと。
続く1本場。現在2番手の若松が7,700を尾澤からアガリ残り3局。
南2局、親・若松。配牌、ツモ文句なし。よどみなく仕上げた手は
            リーチ ドラ
ノータイムでいつもと変わらぬトーンで『リーチ』を宣言する 。
この6,000オールを引けば管野を捕らえることとなる。
全局の7,700のギリギリのアガリをものにし、よどみなく仕上げたこの手は私の予想を裏切り開かれることはなかった。
この局を制し若松を止めたのは森下。
ドラ暗刻の7,700をアガリ若松の決勝はここで終わった。
迎えたオーラスも、きっちり管野がアガリ切りプロリーグ2回目の優勝となった。
打ち上げの席で、管野に私がかけた最初の言葉は『よく我慢したね〜』
勝者とは思えない疲れきった表情で、管野は一言。『ほっとしました。』
聞けば前日は緊張で寝られなかったらしい。
とても私の知る彼からは考えられないが、それだけ思いが強かったということだろう。
対し若松は、その表情からも悔しさが痛いほどわかった。
昨年の私と同じだ。
『光と影』
勝負の世界においては避けられないものである。
だから一筋の『光』の為に精進しその先に眩く輝く瞬間がある。
|