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第34期 王位戦 決勝戦

決勝観戦記(後編)

(文責:松崎 良文)

2008年12月5日(金)18時49分、
生涯勝率約72%を誇る稀代の天才棋士・羽生善治は盤面に一礼し、投了の意を告げた。

前人未踏の永世七冠を懸けた第21期竜王戦七番勝負で三連勝、大記録に王手となるも、
そこから連敗を喫し、状勢は予断を許さない。

絶対的優位に立ちながらも羽生を敗北へと追い遣ったもの、それは栄光への重圧に他ならない。


荒正義が去りて、残り二半荘。

五回戦終了時
大橋 +64.7P 小田+33.0P 山井 +19.0P 清水 ▲33.0P

ここから涅槃とも言うべき終局に至るまでの間、決勝戦独特の重圧が四者を苦しめ続ける。





六回戦(起家から小田・大橋・清水・山井)

一人負債を抱える清水、優勝に向けてトップが絶対条件。
願わくば、プラス域に浮上できるほどの素点を稼ぎたい。


大橋の親リーチを受け、小田・山井もテンパイ。
--共に二枚残り、一番苦しい形に見える山井のがドラ表示牌以外は全て山に眠っている。

小田の食い換えで流れて来たを見つめ、清水が少考。

清水 香織

 

を切ってリーチしてほしい。

私は願った。

『セメントクイーン』という異名が表す通り、かつての清水は超攻撃型だった。
いくら先手を奪われようが、こういった場面で勢い良くドラを横向け、そして和了り牌を引き寄せる場面を、私は何度も目撃してきた。

そんな清水だからこそ、ここで親リーチを掻い潜り、逆転優勝への活路を見い出して欲しかった。


が河に放たれ、大橋が手を開いた瞬間、
フッと溜め息を漏らした清水の肩から、微力が抜けたような気がした。

去来する寂寞感は、二回戦東二局二本場の時のそれよりも重く深く、女王失脚を儚げに告げた。

そして局面は、三つ巴のオーラスへ。

10巡目、トップ目・大橋と3.000点差の南家・小田から条件を満たしたリーチが入る。
ドラがトイツの勝負手を授かった親・山井は、残りツモ2回の所で待望のテンパイを果たした。



私が山井の麻雀を初めて観たのは、今から八年前のリーグ戦会場だった。
手牌の都合を優先させた平面的な雀風とは縁遠い、
正確な絞りを基調とした超守備型雀士・山井弘の放つ異彩に、私は完全に魅了された。

あれから時は経ち、眼前の山井は、まるで別人のような猛々しさを漂わせている。

雀風を変えて摸打に艶が増したこと、決勝進出という結果が付いて来たことを、
山井の周囲の人は評価し、喜びの表情を彼に向けたであろう。

しかし、私の本心は違った。
それは、郷愁の中にひっそりと佇んでいた想い出の学び舎が、
時代の流れと共に風化し、やがては跡形も無く消え去ってしまうような感覚に似ている。

人が変わること。
それは成長であり、環境への適応であり、より自分らしく生きる為に与えられた人間の智恵である。

以前の山井であれば、ここでを切るようなことは間違っても無かったし、
ましてや二回戦南一局でを切るようなことは、例え天地が引っ繰り返ろうが有り得なかった。

それが、山井弘の生き様であった。

山井 弘

 

山井が本日一番の長考に入る。

おそらくを切るだろう。
確信に近い予感を私胸に抱きながら、私は山井の顔を直視し続けた。

そして、小田の手牌が倒された。

六回戦成績
小田 +21.4P 大橋 +10.5P 山井 ▲5.4P 清水 ▲26.5P

六回戦終了時
大橋 +75.2P 小田 +54.4P 山井 +13.6P 清水 ▲59.5P





最終七回戦(起家から山井・小田・清水・大橋)

三十四度目の王位継承争いは、若駒二名に絞られたと言って良い。

大橋・小田、その差20.8P。

順位点5P-10Pの王位戦ルールにおいては一着順10Pの差がつく為、
小田は、大橋より上の着順に立っての素点10.900点差が必要となる。

二つ上の着順であれば必要な素点は900点差だが、
南場以降の山井・清水の戦い方に大きな制約が発生してしまうことに加え、大橋がラス親であることを考慮すると、
前述の条件が最も現実的な数字との認識で相違無い。

大橋にとっては決して油断ならない状況ではあるが、俄然有利な立場で最終戦を迎えた。

将棋界史上傑出の現四冠・羽生善治は、近年勝利を強く意識した瞬間から、指先の震えが止まらなくなった。
無心で勝利を獲得すること、これが勝負の世界に身を投ずる者にとって、どれほど困難なことか。

若駒二名とて、無論例外に非ず。


まずは大橋。

ここまで慎重に押し引きを判断し、極力放銃を回避してきたあの堅実で賢明な大橋が、
あろうことか親の山井に連続放銃。




この二局でトータルポイントは以下。

小田 +54.4P 大橋 +47.8P 山井 +46.2P

紙を横目にポイントを計算する大橋。
サイドテーブルに置いてあった飲料水を一飲して我に返るも、覆水盆に返らず。


そして小田。
次局、労せずしてトータル首位に立った小田の目前に美膳が運ばれた。



が枯れており、打点的にも打-待ちリーチに異論は無かろう。

あとは箸に手を添え、自らが強く欲した光沢を間近に引き寄せるだけで、
至極の御馳走に有り付けられる。


しかし、ここで小田が痛恨の迷い箸。
河に放ったのは、すでに純カラの3メンチャンに受ける

私は思わず目を疑った。
そして次の瞬間、私の視界に飛び込んできたのは、恨めしげにを引き放った失意の小田の姿だった。

結果、一人聴牌で流局。



続く東二局一本場、小田は茫然自失の連荘ではあったが、

 ツモ ドラ

今度は間違えようの無い御慰みの2.000は2.100オールを和了り、トータルポイントを以下のようにした。

小田 +68.2P 山井 +42.4P 大橋 +41.2P


5.000点差のトップ目・山井を上回れば更に有利になる小田。
逆に、三着目・清水と15.400点差の大橋は、窮地に追い込まれた。



このまま載冠への赤絨毯を歩むかに思われた小田であったが、
続く東二局二本場は、北家・山井が1.300・2.600は1.500・2.800をツモ和了り。

 ツモ ポン ポン ポン

この結果は、前々局の小田迷い箸が多分に影響したものであると私は考える。

現在の全自動麻雀卓は、二組の牌が交互に使用・攪拌されており、
終局した結果は、一局置いて後の、つまり二局後に反映される。

何が言いたいかというと、
小田がをツモって2.600オールを加点していた場合と、迷い箸に因って流局した場合とでは、
卓内スペースへの牌の落ち方が違い、さすれば攪拌のされ方も違うので、当然結果も変わってくる。

私には、この山井の和了りという結果よりも悪い出来事が小田に待っていたとは、どうしても思えない。

中国春秋時代の思想家・老子の名言『天網恢々 疎にして漏らさず』、
これを麻雀に当て嵌めるならば、

『雀網恢々 細にして漏らさず』

といったところであろうか。

失態は、必ずや咎められる。
それほどまでに、麻雀は精巧に出来ていると言える。



そして局面は、東四局一本場へ。
今局こそ、大橋優勝・小田敗退の最大分岐点となった。


この時点でのトータルポイントは以下。
小田 +64.4P 山井 +47.2P 大橋 +41.7P


この半荘での着順は、すでに並びが出来ており、ひとまず意識すべきは素点だろう。

小田はここから、山井現物のを切って完全降伏。

「ここで山井さんに打って、次の親番で勢いに乗られるのが嫌でした。」

確かに、一理ある。
だが、それは真理ではなかった。

小田 悟志


何故なら、このときの小田の敵は山井だけでなく、
大橋も居たことを肝に銘じておくべきであったからだ。

次巡ツモでテンパイを果たしていたはずの小田は、同巡に山井がツモ切ったで和了りを逃した。
それを認識した小田の唯一の救いは、大橋に聴牌気配が皆無だったことと言えよう。

流局。
山井の聴牌形を確認しようと注がれた視線が、もう一方にも向けられた時に、小田はようやく事の重大さに気が付いた。

残りツモ2回のところで渾身の聴牌を入れた大橋、その次局の結果は、ごく自然なことのように思えた。

 リーチツモ ドラ

安目ながらも2.600オールで清水をかわし、大橋が三着浮上。これでトータルは、

大橋 +63.6P 小田 +60.1P 山井 +44.9P


大橋がトータル首位に返り咲いた。



そして迎えた南一局四本場、大橋に決定打が生まれる。


積極果敢に仕掛けを入れた大橋、山井の親リーチを受けて聴牌を果たした。
安全度、放銃した時のダメージを考慮すれば打であろうが、大橋はドラを強打。

卓上に閃光が走った。

かの孫子の兵法における軍隊の進退についての記述に『風林火山』という言葉がある。
名将・武田信玄の軍旗としてあまりに有名な四字熟語であるが、
この句に続きがあることは、さほど知られていない。それは、

『知りがたきこと陰の如く 動くこと雷霆の如し』

親番でひっそりと聴牌を入れて復調を成し、急所で一気呵成に攻め込む大橋の戦術は、
正に勝負の真髄と呼ぶに相応しい的確さであった。

大橋 良弘


眩い煌めきの中で山井が力なくを置き、大橋が口を開いた。

 チー ポン ロン ドラ

修羅場で小田は退き、大橋は進んだ。

それこそが、両者の明暗を分けた。


そして、オーラス。


大橋は初手からを三枚並べ切り、穴熊の構え。

対して小田の条件は、2.600直撃、跳満ツモ、倍満出和了り。
12巡目にメンホン七対子の1シャンテンにまで漕ぎ着けるも、聴牌には至らず、
輝かしい光を伴い、勝負は鮮やかな収束を遂げた。

七回戦成績
大橋 +20.6P 山井 +8.4P 小田 ▲2.6P 清水 ▲26.4P

最終成績

優勝 大橋 良弘 +95.8P

二位 小田 悟志+51.8P
三位 山井 弘 +22.0P
四位 清水 香織 ▲85.9P
五位 荒 正義 ▲83.7P





大橋は第18期新人王以来二度目のタイトル獲得。
当時はC3所属であったが、着実に昇級を積み重ね、今年四月に念願のAリーグ入りとなった。
近年良績に見放された折の載冠に、喜びも一入であろう。



敗れた四名、特に小田の心情は量り知れないが、胸を張って欲しいと思う。

二年前の私にとって、決勝戦という舞台で戦い抜いたこと、
そして、あの荒正義より上の成績を収めたという事実が、どれほど自信になったことか。



こうして、第34期王位戦は幕を閉じた。

後列 左から 第5位:荒 正義 第3位:山井 弘 準優勝:小田 悟志 第4位:清水 香織
前列 優勝:大橋 良弘





打ち上げの席で忘れ物に気付いた私は、独り会場へと戻った。

鍵を開け、電気をつけると、
誰も居なくなった会場の中央に置かれた卓が艶やかな光彩を放っていた。

また来年、ここで数々の戦いが行われ、様々なドラマが生まれることだろう。

今はこの場を離れても、私はきっとまたこの場所に戻ってくる。

観戦記者として。

そして、麻雀打ちとして。





 


(文責:松崎 良文 文中敬称略)

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