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タイトル戦情報

第19期 麻雀マスターズ 

決勝観戦記

(執筆:紺野 真太郎)





夢を見た。
マスターズの決勝の夢だった。そこに座っていたのは、荒正義、沢崎誠、瀬戸熊直樹のトッププロ3人。
「ロン」「ツモ」「ロン」・・・・
悔いを残さぬよう力いっぱい戦うがまるで歯が立たない。
でも、これは夢であったから、結末を見る前に携帯のアラームが私を現実に引き戻した。

「そうか、俺は負けたんだったな・・」

そろそろ会場に向かう時間である。
私は決勝の為に用意していたシャツとネクタイとは別のものを着て会場へと向かった。


もうこのHPの速報でご存知であろうが、第19期マスターズチャンプの座には、中部本部所属の樋口新という若者が就いた。
しかし、戦前にはこの若者が勝つだろうと予想した者はほとんどいなかったと思う。ではなぜ勝てたのであろうか。
私なりの見解をここに記していこうと思う。

今回のマスターズ、私の出来は過去に記憶がないくらい良かった。
本気で決勝にいくつもりだったし、決勝までのスケジュールも空けておいた。
そしてベスト16まで勝ち上がった時、そこには前原雄大が座っていた。

ベスト16トーナメント東1局。親・前原。
こういう戦いの時、前原の起家というものはそれだけで威圧感がある。そして澱みなく7巡目にリーチ。
ただ1つ引っかかったのが、ツモ切りリーチだった点。数巡後に2軒リーチとなり、私の切り番。

少し状況を説明すると、ドラはでリーチ前に前原がツモ切っていた。(少考が入っていたため、私は手出しと勘違いしていた)
さらにリーチの2人がを切っており、追いかけリーチはを切ってのものだった。
私の手牌は、を切れば-のテンパイ。を切れば単騎という形。
私は前原にが当たるかを必死で考えた。カンの三色なら即リーチであろう。七対子は待ちごろの牌を何枚も切っている・・・

「ロン!」

声の主は前原だった。しかも声のトーンから本手であることはすぐ理解出来た。
ドラトイツの単騎の七対子。前原はジャブのつもりで放ったであろうパンチは、私にとってどんなストレートよりも効いた。

2回戦、私は攻めた。出来はいいから手は入る。しかしことごとく止められた。
でもそれは前原ではなかった。名前が分からなかったので名札を見た。そこには「樋口新」と書かれていた。

「俺より若いけど肝が据わっているな。いい打ち手だな・・」

私は敗れた。前原のジャブで脳が揺れ、樋口のカウンターでKOされた。
悔しさはあったが、完敗であった為、後には残らなかった。・・・筈だが、夢を見たということは、そんなことも無かったようだ。



開始30分前に会場に着くともう樋口は来ていた。
中部本部から来た10名ほどの応援団と共に談笑中。とてもこれから初めて決勝戦を戦うようには見えない。
ある意味羨ましく思えた。

ほどなくして、荒、沢崎、瀬戸熊も姿を現す。荒、沢崎はいつも通り。普段の対局の時とまるで変わらない。
本人達の中では違うのかもしれないが、こちらからは窺い知ることは出来ない。
瀬戸熊は少し離れた所で精神集中。これも大舞台の前のいつもの感じである。
そうこうしているうちに開始の時間となった。


左から 荒 正義、樋口 新、
沢崎 誠、瀬戸熊 直樹


荒、沢崎、瀬戸熊にとっては何回も経験してきた舞台だが、樋口にとっては勿論初の大舞台。
役者の世界はよく分からないが、大御所3人との芝居に大抜擢された若手俳優みたいな心境なのだろうか。
ドラマや映画ならNGを連発したとしても編集でなんとかなるであろうが、これは客前でやる舞台と同じ。
失敗しましたでは許されない。東1局、やはり樋口の立ちあがりに目がいく。

樋口 新

 

私の持論では、序盤の6巡目辺りまでの捨て牌こそ真の実力が映し出されると考える。
南家・樋口の捨て牌は(ドラ

 (のみツモ切り)

こうで悪くない。何が悪くないかといえば、普通に打てているということ。そして手牌は、

こうなっていた。
「やっぱり大したもんだな・・・」と感心すると同時に、堂々と戦う樋口に、軽いジェラシーに似た感情も憶えた。
この局は終局間際に親の沢崎がリーチを打ち、それを樋口がドラ単騎で粘りきり、2人テンパイでの流局。
決勝としてはよくある感じの出だしだったが、続く1本場、ストーリーが無いリアルな戦いは突然事件を引き起こした。

「16,000は16,300」

 リーチ ロン(一発) ドラ 裏ドラ

開かれた樋口の手牌。ただ普通に打ってこうなった訳ではない。
樋口の戦う強い意志と、それを実行させる強いハートがそうさせたのであった。

4巡目、北家・瀬戸熊が先制リーチ。

 リーチ ドラ

瀬戸熊にしてみれば、今日の出来を計る上で絶好のテンパイであったろう。
先手、打点、待ちと条件が揃っていた。その時、樋口の手牌は、

 ツモ

最初からホンイツに向かっていたが、リーチを受けてが切り遅れている形。瀬戸熊の捨て牌にはがある。
普通、まだ1回戦東1局であることが頭をよぎるであろう。樋口もそう考えたのかは分からないが、ここは打とした。
だが、次のツモを引くと、樋口は意を決したかのように瀬戸熊の入り目でもあったを河に置いた。

多分、樋口がこの局、更にはこのマスターズを制したのは次のをツモ切れたからだと思う。
是非、牌譜をご覧になって頂きたいのだが、このを一体何人の人間がツモ切れるだろうか。
※牌譜データサービスはこちら

よく例え話で、「床に置いた板の上を歩けるか?」というものがある。当然床に置かれているだけの板の上を歩くことは容易だ。
すると、その問いを出した者は必ず後にこう続ける。「では、この板が断崖絶壁の上に架けられていたら?」と。
この状況はまさに断崖絶壁の上である。一歩足を踏み外せば谷底に真っ逆さまである。

私には切れない。渡り切った時に得られるものより、踏み外した時に失うものを先に考えてしまうからである。
でもそれは「勝つ」為にだ。しかし、「戦う」ということを避けているだけなのかもしれない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」とは昔の人はよく言ったものだ・・・

この局、本当に樋口は何かに試されているようであった。次の刺客はであった。瀬戸熊のロン牌だ。
前巡、をツモ切ったのだから、このをツモ切っても何もおかしくない。当然、辺りを落として回っても・・だが、樋口は生牌のを切った。
瀬戸熊の危険筋の1つである、-を潰したからこそ、このは切れないと考えたのであろうか。

この決勝戦、私の隣では藤崎智が観戦していた。
卓から離れたところにあるモニターだったが、藤崎は時折「へぇー」「やるねぇ」「しっかりしてるねぇ」と1人つぶやいていた。
それらは全て、樋口に向けられているものであった。

難問はクリアした。反撃である。次巡を重ね瀬戸熊を追った。
荒、沢崎共に樋口が押しているのは当然気づいている。だからこそ丁寧に打ち回していた。
しかし、この樋口のリーチの直後、荒は追い込まれてしまった。

「今回は最初から勝てる気がしなかった・・」

荒が最後に残したコメントである。

荒 正義

 

「この決勝が、ってことじゃなくて、最初の本戦の時からそう感じていたし、それはトーナメントに入ってからも変わらなかった。
勝ち上がってはいるんだけどね・・・」

私は荒のそばで話しを聞くのが好きである。好きというよりも幸せといったほうが正しいかもしれない。
もうこの世界に入って10年経つが、未だに荒と話しをする時は緊張する。うまく話せないことも多い。
だが、荒の話を聞けるのは幸せである。

何年か前、荒が入院したと聞いた。病院を聞いた私はとりあえず向かった。
普通お見舞いならば、手に何かを持っていくべきなのだろうが、手ぶらで向かった。
荒と病室で2人だけになったら緊張して何を話していいか分からなくなってしまうであろうに、向かった。
その時はただ荒の顔を見たかった。

病院に着くと荒は不在であった。入院しているのに外出中で不在ということは大丈夫なのだろうと妙に安心して帰ったのを憶えている。
そんな私にとって、憧れという以上の存在の荒を樋口が追い込んでいる。

「・・・」

言葉にならない感情が私を支配する。

荒が手を掛けたのはであった。会場は声にならないどよめきに包まれた。

東3局、樋口には風が吹いていた。
戦前の風評のような向かい風ではなく、全てを吹き飛ばしてしまうような強烈な追い風であった。
樋口もその風に目一杯羽根を開き、風を逃さず受け羽ばたいた。

 ドラ

この好配牌を受け、ほぼ手なりで、

 

こう育てあげた。問題はこれをどうするかであるが、樋口に迷いは無く、牌を横に曲げた。
戦い方なのだが、これはリーチを打たなければいけない手だと思う。ただこの舞台で打てるかということだけである。
ここでリーチを打つということが、風を生かし羽ばたくということなのだ。樋口の持ち点は70,000点を越えた。


ここまで樋口のまさしく一人舞台だが、沢崎は特に気に留めた風でもなく時を待っているかの様であった。
沢崎にとってこんな逆境は慣れっこなのである。
沢崎が決勝にいるということに何も違和感が無い。なんだか当たり前の光景のようである。
だが、ここまでくるまでの沢崎は逆境の連続だった。

沢崎 誠

 

初日の本戦4回戦、ここでトータルマイナスの者は敗退となる。
沢崎のポイントは0をかなり下回っていた。私も戦っていたので、沢崎がどんな戦い方をしたのかは知らない。が、やはり当たり前のように5回戦に進んでいた。
5回戦終了時、52位までがトーナメントに進めるのだが、ここでのボーダーは+45ポイントほど。
ここでも沢崎は60,000点トップが必要。が、やはり当たり前のようにトーナメントに進出していた。

ここまで来てしまえば、トーナメントの鬼である沢崎。
特に、準決勝の前原と黒木を相手に、荒と一緒に勝ちあがったのは芸術的でさえあった。

「沢崎さんて、いつも(打ってる時)楽しそうですね」
「楽しいよ。今日はいっぱい裏ドラも乗ったしね(笑)」

この返しは沢崎流のジョーク。真剣な顔つきになり、言葉を続ける。

「やっていて苦しいことも当然あるけど、プロならそういうものを楽しめるようにならないと。勝負だと思って勝負にいってそこで負けたらしょうがないよ。」

なにげない言葉だが、それだけに沢崎の勝負の精度の高さを感じずにはいられなかった。

南1局、親・沢崎。4巡目にこのテンパイ。

 ドラ

リーチは掛けない。これは樋口を意識してのものだと思われる。出来れば樋口を直撃したい。
だが、リーチを打てばそれは叶わない。沢崎は勝負の時を待った。5巡目、瀬戸熊からリーチが入った。

 リーチ

これは引きにいくリーチであろう。瀬戸熊もこれを引くことにより、風向きを少しでも変えたかったのだろう。
状況が変わった。瀬戸熊の捨て牌に沢崎が有利になるような牌はない。沢崎は勝負を決断し、追いかけた。
一発ツモで6,000オール。樋口を追う一番手に浮上。2回戦をトップとし追撃体制を整えた。

2回戦終了時、樋口は卓のそばを離れず1人佇んでいた。胸に去来する思いは眺めても窺うことはできなかった。
一方、荒、沢崎はこれといって焦る様子もなくいたって普通。淡々と次の準備を重ねる。
瀬戸熊は開始前と同じ場所で同じように精神集中。だが表情は冴えない。


「うげぇー」

鳳凰戦の3日目、私がトイレにいると、瀬戸熊が駆け込んできて隣の個室で吐いていた。
だが、胃の中は空らしく、込み上げてくるのは胃酸だけなのだろう。吐いても吐いても苦しそうであった。

「これが鳳凰戦なんだろうな」

後ろを通り戻る瀬戸熊に掛ける言葉は見つからなかった。
瀬戸熊が勝つ時、圧勝というのを見たことがない。鳳凰戦も最終ポイントこそ離れたが、内容は苦しい場面の連続であった。

あの時もそうであった。瀬戸熊がA1に上がった時、私は対局相手として目の前に座っていた。
大詰めの瀬戸熊の親を迎えた時点で瀬戸熊の不利は否めなかった。
そんな中、瀬戸熊はリーチを打ち、ツモアガリを決めたのだが、その開かれた手牌に衝撃を受けた。

・・・・・  ツモ

あまりにこの部分が強烈であった為、残り5枚を憶えていない。頂点に手が掛かるA1を目前にし、追い込まれた状況でこのリーチを打ったことに衝撃を受けた。
苦し紛れに打ったのではない。見た目の良い待ちにしようと思えばいくらでも出来た。
それでもあえてこれでリーチを打ち、ツモってA1を手にした。
瀬戸熊にしか出来ないアガリ。瀬戸熊が勝つ時このような状況を打ち破る「瀬戸熊スペシャル」が存在する。

3回戦、東1局またもや樋口が先手を打つ。

 ドラ

ツモり三暗刻のリーチである。このままではまた守勢に回らされてしまう。親の瀬戸熊は仕掛けて応戦した。

瀬戸熊 直樹


しかし、やってきたのは。タンヤオ仕掛けの瀬戸熊は、それでもぎりぎりまで粘ったが最後に捕まった。
を暗カンしていた樋口に、カンドラと裏ドラが乗り12,000。
瀬戸熊を斬り、樋口はまた一歩戴冠に近づいた。
今回は最後まで瀬戸熊の「スペシャル」を見ることが出来なかった。

もうこの頃になると誰もこの舞台に樋口がいることに違和感を感じていなかった。完全に大御所達を食っていた。

東4局の樋口の親番でも丁寧に三色に仕上げてリーチ。

 リーチ ドラ

は各自に持たれていて、山にはあと1枚だったが、1枚あれば十分であった。
またしても一発ツモで6,000オール。樋口のこのアガリには相当手応えがあったようで、

「これでいけるかなと思いました。」と答えている。

このままいってしまうのか。もう捕まらないのか。
4回戦終了の頃には、会場ももう決まったかのような空気が流れ始めていた。

どこかで緊張が緩んだのだろうか。5回戦に入ると樋口の様子に変化が出始めていた。
見た目が変わったのでは無いが、中身が崩れ始めていた。

東1局、樋口の親、終盤に形テンを取りにいって放銃してしまう。
これまで形テンを取りにいったことも無かったし、ここで取る必要は無い。
優勝がはっきり見えてきたことによるプレッシャーなのだろうか。

東2局、今度はタンヤオなのかの後づけなのか意図がわからない遠い仕掛け。
明らかにバランスが崩れかけている。これが最後の壁なのだろう。

東3局、樋口はリーチを打った。

 リーチ ドラ

崩れかけていたのは樋口も分かっていた。この手にリーチが必要ないのも分かっている。
しかし、ここまで真正面から戦ってきたことで今この位置にいるのだ。
最後まで自分らしく戦おう。そんな想いが込められたリーチであった。

荒が追いかけた。荒も樋口の異変には気づいている。待ちは-。多分この1巡で樋口が掴む。
それがなのかそれは誰にも分からない・・・

手を開いたのは樋口だった。手許には高目のが置かれていた。事実上の優勝の瞬間であった。

表彰式も終わり打ち上げ会場にて簡単なインタビューを行ったのだが、樋口は荒と沢崎に挟まれて座り、対局中より緊張していたのが印象的であった。
ここまで全く無名だったと言ってもよい樋口がタイトルを手に入れた。樋口はこれによりプロとして様々なチャンスを掴むことであろう。
それを活かせるかどうか・・樋口の本当の勝負はこれからなのかもしれない・・・


樋口新(ひぐちしん)三重県出身

中部本部所属23期生 初段

1984.5.11生まれ

主なタイトル 第19期マスターズ

 

後列 左から 第4位:瀬戸熊 直樹 準優勝:沢崎 誠 第3位:荒 正義
前列 優勝:樋口 新

 

 

 

 

(執筆:紺野 真太郎 文中敬称略)

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