初日終了時
安田麻里菜+57.7P 桑原恵子▲1.3P 清水香織▲24.2P 魚谷侑未▲32.2P
前半戦を1人浮きの首位で折り返し、初タイトルが現実味を帯びてきた安田。昨夜はぐっすりと眠れたのだろうか?
2日目になって、昨日の後半の好調がうそのようにマイナスを重ねていく。
かくして勝負は最後まで目が離せない大混戦となった
6回戦(起家から、安田、魚谷、桑原、清水)
今日の初戦で、安田がトップをとるようだと、大きく優勝に近づくことになる。
他の3人は、逆転優勝するために共通意識をもって、安田のポイントを削りにいかなければらない。
東1局、安田テンパイ連荘後の1本場、南家・魚谷が5巡目リーチ。
            リーチ ドラ
を暗カンした後ツモアガリ、2000・3900で安田に親っかぶりをさせる。
次局、親番の魚谷が13巡目のリーチ。
            リーチ ドラ
前日、トータル4位の魚谷がガンガン攻める。西家の清水も攻め返し、
         チー  
魚谷から を討ち取る。東3局は安田がリーチ。
            リーチ ドラ
魚谷から が出て3200。持ち点が30,200で配原オーバーとなる。
東4局は、安田9巡目の先制リーチ。
            リーチ ドラ
高目をツモることができれば、大きく初タイトルに近づく本日、最初の勝負リーチだったが、親の清水が追っかけリーチ。
            リーチ
追う方からすれば安田のリーチは直撃チャンス。手が入ったら当然ぶつけに行く。
前巡、ドラの を掴んだので先に を切ったため、高目三色のテンパイを逃したのが不満だが、安田から で5,800とリーチ棒付きでアガリ。
親満は取り損ねたが、微差ながら安田がラス目となった。
南1局、親の安田が3巡目に切った を魚谷が仕掛け打 。
動画再生
         チー  ドラ
安田はこの を仕掛け返すと、次巡 をチー。
安田は魚谷の手をどう読んでいたのだろう。
      チー  ポン  
道中でドラが重なったり切るチャンスが出て、連チャンできるかもしれないので仕掛け返したのだろう。私なら もポンしないと思うのだが。
ここまでの魚谷の仕掛けがスピードも速くなく、精度の低いものが多かったので軽んじていたのかもしれない。
しかし焦ったかのような チーはどう見ても悪手。ドラの が浮いたまま、手牌がマンズだらけになったらどうするのだろう。
私が懸念したとおりの進行となった。
魚谷がすぐにドラのダブ南を暗刻にして跳満テンパイ。
その後、高目倍満となる と のシャンポンに受け替えれば でツモアガリだったが、これは仕方なかろう。
魚谷のアタリ牌 を暗刻にしてテンパイした安田は、超危険と思える を勝負。ツイているなあと思ったが、次のツモが で跳満放銃。
を切ったくらいだから止まらないかもしれないが、ドラの 以外は全部行くつもりだったのだろうか?
苦しいのは追いかける方で、2位につけている桑原も沈んでいたため、まだ普通のラス目くらいでは焦る必要のなかった安田。
この7枚見えの - は止めて欲しかった。
6回戦は、オーラスに魚谷を捲くった清水がトップで終了。
6回戦成績
清水香織+23.2P 魚谷侑未+17.8P 桑原恵子▲13.4P 安田麻里菜▲27.4P
6回戦終了時
安田麻里菜+30.3P 清水香織▲1.0P 魚谷侑未▲14.6P 桑原恵子▲14.7P
安田が大きなラスを食ったため、首位から4位までの差が半荘1回で半分になり、他3名共に逆転優勝が現実味を帯びてきた。
それでもまだ、安田1人だけがトータルプラスの首位であることに変わりはない。
早めに修復したい安田、次戦から立て直せるのか?
7回戦(起家から桑原、魚谷、安田、清水)
東1局、西家の安田が6巡目にタンヤオ三色のヤミテン。
            ドラ
チャンタ1シャンテンの桑原から出て5,200。安田、これで少しホッとしたことだろう。
次局からも連続で軽い手をアガって、連荘中の安田が親番。持ち点は37.800点で1人浮きの東3局1本場。

まず、西家・桑原が9巡目にチーテンの3,900。
         チー  ドラ
同巡、北家・魚谷が七対子を即リーチ。
            リーチ
同時に、安田にもテンパイが入るがヤミテンに構える。
            
安田は次のツモで が暗刻になる。少考した安田は、魚谷の現物の 切りとして手を変え桑原へ放銃となった。
桑原の仕掛けと、魚谷のリーチをどう読んでいたのだろう?
昨日の安田なら、カン が入ってテンパイした時に、メンタンピンで追っかけリーチをかけていたはずだ。
せっかく東1局から3連続でアガって立て直した流れが、再び安田の手から離れて行ったような気がした。
南2局1本場、親の魚谷に勝負手が入る。
            ドラ
ヤミテンなら がこぼれそうな場況に見えたが、安田と清水が仕掛けていることもあってか、押さえ込みとベストの6.000オールを狙って魚谷はリーチを打つ。
安田
         ポン  
清水
         チー  
リーチを受けた安田のツモは、ドラの だったがここは を勝負。
2巡後には、 が暗刻になったが、これをツモ切り清水に3,900の放銃でラス目まで落ちた。
この局は、 を一鳴きして捌きに行った事が、清水の仕掛け返しと親リーチを呼び、
危険牌を引かされて自分の仕掛けが裏目に出たのだから、ぐっと堪えて欲しかった。
オーラスは、親の清水が1.000オールでトップ目となるが、桑原が捲くり返して終了。
7回戦成績
桑原恵子+12.0P 清水香織+7.9P 魚谷侑未▲6.5P 安田麻里菜▲13.4P
7回戦終了時
安田麻里菜+16.9P 清水香織+7.9P 桑原恵子▲2.7P 魚谷侑未▲21.1P
一度は立ち直りかけた安田だったが、避けられたはずの放銃を二度犯して連続ラス、これがプレッシャーのなせる業なのだろうか?
どこか攻守の歯車がズレてきたように思える。それでも、昨日の貯金のおかげでまだ首位。
しかしこの後、回を追うごとに上下の差は縮まり、勝負の行方は混沌として行くのだ。
8回戦(起家から、清水、魚谷、桑原、安田)
東2局、魚谷の親番。西家の安田が9巡目に チーと仕掛ける。

         チー  ドラ
一応、鳴いてホンイツのみの1シャンテンだが、形も良くないし少し軽くはないか?
案の定、魚谷の親リーチを呼び込んだ。
            リーチ
安めは無く、高目の だけが3枚山。魚谷はしっかりと をツモリ、一気に優勝争いに名乗りを上げた。
魚谷は、続く1本場もリーチで駄目押しを図る。
            リーチ ドラ
山に5枚生きでここも魚谷がアガって突き放すと思ったが、北家・清水がそうはさせじと身を挺して待ったをかける。
         ポン  
5枚対1枚と清水がかなり不利だったが、ラス牌の を魚谷が掴んで5.200の振込み。
ここで清水が踏ん張らなければ、魚谷の親はもっと続いていただろう。
清水は、東4局の安田の親でもリーチで1.300・2.600をかぶせ、さらにラス前にもメンタンピンをツモリ、測ったように魚谷を捲くる。
女王・清水のここ一番の勝負強さには凄味さえ感じた。
オーラスは桑原が満貫をツモ。
            リーチ ツモ ドラ
またも親ッカブリの安田が1人沈みで3連続ラス。トータルでもマイナスとなりついに首位を明け渡した。
8回戦成績
清水香織16.5P 魚谷侑未9.1P 桑原恵子2.7P 安田麻里菜▲28.3P
8回戦終了時
清水香織23.4P 桑原恵子±0P 安田麻里菜▲11.4P 魚谷侑未▲12.0P
残りあと2回、清水が昨日から数えて4度目のトップで先頭に立ち、「やはり本命・清水の2連覇だったか」と思わせたのだが、
何と、次回決勝4度目のラスを喰い、想定外の失速を見せたのだ。
9回戦(起家から 安田、魚谷、桑原、清水)
東4局、流局後の1本場、南家の魚谷が6巡目にポンテン。
         ポン  
これに、北家の清水が  のリャンカンからドラの が出て行かないように、 を先切りして3.900の放銃。
この早い巡目で、魚谷にポンテンが入っていたとは思えなかったのだろう。
魚谷、前局のリーチ棒と本場で6,200と逆転へ向けての幸先良いアガリとなった。
東2局2本場、魚谷が連荘中の親番で1人浮き。
南家・桑原が、この配牌から親の第一打 をポン。
            ドラ
普通こんな仕掛けはしないだろうが、連荘の魚谷を牽制する意図なのだろう。
しかし、3巡目の魚谷の もポン。
       ポン  ポン  
このポンは何なのだろう?シャンテン数も上がらないし、残りの形もひどい。牽制のつもりなのか?こんな麻雀は見せて欲しくない。
それでも何とかテンパイになったが、この後、魚谷にダブ東も もポンさせ、魚谷もカン 待ちで追いつく。
北家の安田も跳満の1シャンテンとなる。
         ポン  
このように煮詰まってきた中盤で、カン でテンパイしていた桑原は をツモ。
安全な を切って待ち変えすれば良いのに、魚谷にかなり危険な をツモ切りして放銃。
      ポン  ポン  ロン
どうしてこんな安易な放銃をするのか、もっと歯を食いしばって麻雀してもらわなければ・・・。
東3局、桑原の親では、南家・清水が8巡目リーチ。
            リーチ ドラ
桑原10巡目、
             
こうなり、 で放銃。もう1枚の浮き牌 もアタリで詰んでいる。
私はさっきのような悪い放銃が、このような状態を招くと信じている。
「この半荘のラスは桑原で確定、優勝争いから脱落したな」と思った。
ところが、東4局1本場に事件が・・・。
動画再生
トップ目の西家・魚谷が清水の親を落としにかかり、4巡目に速攻のテンパイ。
         ポン  ドラ
次巡、 ツモで を切り - 待ちとしたが、ドラの を引くことも考えれば、 切りで - のノベタンにしておくほうが良いかと思う。
そうすれば、即ツモアガっていた。魚谷はツモ でも待ち変えせずにツモ切りすると、 をポンしていた北家の桑原がこれをポンしてテンパイ。
      ポン  ポン  
魚谷の次のツモは だった。 ポンされた直後の ツモは、待ち変えのナビゲーションだと思ったが、これもツモ切りしてまたもアガリを逃す。
それほど、 - 待ちに自信があったのだろうか?2度もアガリ損なえば、清水の親リーチも入る。
            リーチ
をツモれば清水がトップ目となり、大きく優勝へと近づく。
これで魚谷はオリに回るのだが、結果は、清水が を掴み桑原への満貫放銃でラス目となったのだ。
強敵、清水の親を蹴りに行った魚谷が、受け間違いで2度もアガリ損なった結果、望外にも清水がラス落ちし、この時点で魚谷が僅かにトータルトップに立った。
南2局は、安田がリーチで1,300・2,600をツモり2着に浮上。
            リーチ ツモ ドラ
オーラスも、清水渾身の親満リーチに追っかけ、安目ながらも清水から3.900をアガッて浮きの2着。
清水
            リーチ ドラ
安田
            リーチ ロン
ようやく3ラスで止めた安田、辛くも優勝圏内に留まった。
魚谷は、9戦目にしてようやく嬉しい初トップだが、たった1度のトップで一躍首位に踊り出た。
9回戦成績
魚谷侑未+22.1P 安田麻里菜+7.6P 桑原恵子▲5.8P 清水香織▲23.9P
9回戦終了時
魚谷侑未+10.1P 清水香織▲0.5P 安田麻里菜▲3.8P 桑原恵子▲5.8P
最後の半荘を残して、1位から4位まで僅か15.9P差。
2位以下の3人も、最後にトップを取ればほぼ優勝だが、魚谷が浮きの場合はある程度の点差をつけねばならない。
近年稀に見る大混戦となったのは、2戦目から9戦目までの8半荘中、トータル首位に立つ者が次の半荘で実に6度もラスを引くと言う、
前代未聞の展開が大きな要因。
全員が首位にも最下位にもなり、毎回順位が入れ替わりながら大詰めに来て最も差が縮まった。
こうなると、もう誰が勝ってもおかしくない。勝利の女神は誰に微笑むのだろうか?いよいよ最終戦のサイが回された。
10回戦(起家から 清水、安田、桑原、魚谷)
プロ連盟競技規定により、最終戦はここまでのトータル首位がラス親、2位が起家となる。
まず、清水の親番は、魚谷リスクを承知で強気の先制愚形リーチを放つも、桑原と魚谷の2人テンパイで流局、
            リーチ ドラ
東2局1本場、魚谷は桑原のピンズホンイツ仕掛けに1度手を回したが、ドラの が出切ったのと自分の手がピンズ4面張となり、
これなら桑原に負けないと踏んでリーチを打つ。
            リーチ ドラ
ところが、ここで追いついた清水が待ってましたとばかりに追いかける。
            リーチ
魚谷を沈めてトップを取る必要がある者には絶好のチャンス。
清水の狙い以上に、魚谷がホーテイのオマケ付きで を掴んで本場とリーチ棒込みで6,500点の直撃。
さすがは場数を踏んでいる清水、勝負所を外さない、この一発で連覇へ大きく前進した。
次は魚谷が、その次の局は清水が、それぞれ勝負リーチを放つがどちらも流局。
魚谷
            リーチ ドラ
清水
            リーチ ドラ
東4局2本場、安田が3面張をヤミテンし、清水から2,000点をアがるが、
            ドラ ロン
ここはヤミではなく、リーチを打って1,300 2,600を引きに行くべきだった。
親の魚谷がマンズホンイツ2フーロで、ピンズが安く、本場とリーチ棒2本がオイシイとは言え、
魚谷が沈んでいる今は、普通にトップを捲くるだけでよいのだから、ここまでの戦い方を貫いて強くぶつけて欲しかった。
南1局 清水の親8巡目に魚谷が 切り先制リーチ、
動画再生
            リーチ ドラ
苦しいドラ表示牌待ちの引っかけリーチだが、現状ラス目の魚谷は、とにかく30,000点以上にしなければ負けなので、なりふり構っていられない。
次巡、南家・安田もリーチ。
            リーチ
実は、この前から清水にアガリを決めれば優勝決定というような好手が入っていたが、
            
2人リーチを受けて、ツモ でこの手牌になった。
共通安全牌は、筋の くらいでオリ切れないし、オリる手ではない。
当然、決定打を決めに行くのだが、さて何を切るか?
腹を括ってタンピン三色に的を絞って無筋を飛ばすか、テンパイ確率重視で を切るか、
しかし、清水の目から3枚見えのドラ表示牌の は最もキナ臭いし、よくあるパターンだ。
勿論、清水もそんなことは百も承知、この決勝戦で清水が打牌選択に一番迷った瞬間だった。
そして、清水が河に放ったのは 。
魚谷にとっては、再逆転への足がかりとなる嬉しいアガリとなったが、清水にしてみれば、この一打が手から連覇が逃げて行った局となった。
南2局、南家の桑原がメンタンピンをツモって1,300・2,600。
            ドラ ツモ
桑原が、待望のトータルトップに立った。
親の安田もドラ2で、最後の追っかけリーチをかけたが実らず、ここで力尽きた。
南3局、桑原連荘の1本場、魚谷がダブ南を仕掛ける。
         ポン  ドラ
ドラのカンチャンでマチは苦しいが、アガれば浮く。
魚谷は、これを執念でツモリ、持ち点30,800で再びトータルトップを奪い返してついにオーラスを迎える。
ここで各自の条件をまとめてみよう。
魚谷は、とにかく沈まないこと、全員ノーテンなら伏せてもよいが、一度はアガっておく必要があるだろう。
この半荘、トップ目の桑原は魚谷を沈めれば良し、他家からなら6,400以上のアガリが必要。
清水は、1,600・3,200 以上のツモアガリか7,700 以上の直撃。他家からなら跳満以上の出アガリ。
安田は跳満ツモ、魚谷か清水からなら倍満以上の出アガリ、桑原からなら魚谷が2着になるので倍満では足りない。
南4局、以上のような条件で始まったオーラスは、追う3人がなかなか条件を満たす手にならず、魚谷が12巡目にテンパイ一番乗り。

魚谷はここで 切りのリーチを敢行したが、リーチ棒を出すと原点を割り、桑原は何でもアガるだけでよくなり、清水も満貫ならどこからでもよくなる。
ここは 切りのタンピンでダマテンがベストだったと思うが、魚谷が難なく をツモアガリ大きく大きく優勝に前進した。
            リーチ ツモ ドラ
これで、他家の次局の条件は厳しくなり、清水が終盤にようやく跳満ツモのテンパイを入れたが既に純カラで終局。
魚谷が、見事に初めてのビッグチャンスを実らせた。
10回戦成績
魚谷侑未+13.8P 桑原恵子+8.0P 清水香織▲5.9P 安田麻里菜▲16.9P
最終成績
魚谷侑未+23.9P 桑原恵子+2.2P 清水香織▲6.4P 安田麻里菜▲20.7P 供託1.0P
敗れた3人も、それぞれ何度か優勝を掴みかけた時があった。
それだけに、今回は悔やんでも悔やみきれない敗戦となったことだろう。だが、3人共、女流桜花のリーグ戦では毎年決定戦進出の有力候補だ。
この中の誰かは、必ず来年もこの決勝の舞台に勝ち上って来ると思うし、来年は魚谷への挑戦者として、再び熱い闘いを観せてもらいたい。
3年目にして、女流最高峰のタイトルを獲得した魚谷侑未。彼女は生活の拠点を東京に移し、普段は麻雀店に勤務。
出場できる試合には全て出場し、ほとんどの決勝を観戦し、初級の女子研修にも参加するなど、日々、麻雀漬けの生活を送っている。
そんな努力が早くも実を結んだが、この快挙に驕ることなく、これまでのように努力を続けて行けば、
女流のトップクラスに駆け上がるのに、そんなに時間はかからないだろう。
表彰式では、こらえきれずに嬉し涙が溢れたが、そんな姿も初々しく、心から麻雀を愛している気持ちが伝わって好感を持てた。
「おめでとう、魚谷!」
魚谷侑未プロの更なる飛躍に期待して筆を置く。

(執筆:藤原 隆弘 文中敬称略)
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