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第27期 鳳凰位決定戦

鳳凰位決定戦観戦記 〜初日〜

(執筆:望月 雅継)



―プロローグ―

「僕が一番決勝戦を見ているから。勝つ人の顔、負ける人の顔。やっていいこと、やってはいけないこと。藤原さんと一緒に、僕が一番見ているから。」
鳳凰位決定戦を直前に控え、瀬戸熊はそう語った。そしてこう続けた。

「鳳凰位決定戦のステージの高さを伝えたいんだ。」

瀬戸熊の伝えたいことが、この文章から読み取れるだろうか…。
瀬戸熊の積み重ねた時間の重みを、感じることができるだろうか…。

遡ること5年前、私は念願の鳳凰位を獲得した。
その打ち上げの席で見せた瀬戸熊の表情を、私は生涯忘れることができないだろう。

歓喜に沸く私の仲間たちをよそに、一点を見つめ、歯を食いしばるように思いにふける瀬戸熊。
目の前に対座した私は、そんな瀬戸熊から目を背けずにはいられなかった。
いろいろな想いが去来したのだろう。出された食事にも箸をつけずに、押し黙ったままであった。

瀬戸熊直樹の過ごしたこの1年間の重圧は、瀬戸熊本人にしかわからない。
悲願の鳳凰位を奪取したあと、以前と何も変わらないスタンスで、黙々と運営や立会人をこなす瀬戸熊の姿を見て、何も感じない者はいないだろう。

「今回は応援してくれた人が多かったから…」

このコメントは、鳳凰位決定戦終了後の談話である。
普段それほど口数の多くない瀬戸熊の、鳳凰位決定戦終了後のはにかむ笑顔を見ていると、
冒頭の言葉が、数十年後の瀬戸熊のダイイングメッセージに聞こえてならない。

瀬戸熊が伝えたかったこと。
それは本来、瀬戸熊の戦う背中を見て感じるべきであろう。
瀬戸熊の戦う瞳を見て、感じるものだろう。

麻雀プロは表現者であると同時に、メッセンジャーであるとも私は考える。
瀬戸熊勝利の瞬間、私はそんなことを考えていた。
瀬戸熊直樹は現在、間違いなくプロ連盟一のメッセンジャーなのだ。

そんな瀬戸熊の背中を追いかけてきた私が、この観戦記で瀬戸熊の魅力の全てを伝えることはできないが、
鳳凰位決定戦のステージの高さを代弁するために、来年以降、多くの観戦者が会場に訪れる気持ちになれるように、思いの丈をこの筆に込めようと思う。


―鳳凰位決定戦を前に―


板川 和俊


3位通過
板川和俊 七段 12期生
第1、8、9期太閤位
第21回最強位
2年連続2回目の出場

鳳凰位決定戦前週、2年連続となる関西プロリーグ『太閤位』を獲得。
秋には『最強位』も獲得し、今年度乗りに乗っている板川。
お祝いの意味も込めて電話インタビューを試みると、板川は業務終了後、大阪新地にて会食中の様子。
そこにはいつも通りの板川がいた。

「いや〜、僕はね、モッチャン(私)や近野(関西Aリーグ、現竹城位)が強くなってくれたことがホンマに嬉しいんよ。
キツイことをたくさん言ってきた甲斐があったんだからさぁ」

自身のインタビューだというのにそう語る板川には、十数年前から変わらない麻雀プロへの熱い想いが感じられた。
事実、幾度となく叱咤、激励を受けたからこそ今の私があるのだが、
麻雀プロの在り方や、地方で活動していくための覚悟を伝えてくれたのも、また板川であった。

気を取り直して鳳凰位決定戦の抱負を伺ってみると、

「間違いなく面白い戦いになるのだから、心技体万全にして自分が全力でぶつかるのみだよ。
自分が一番格下なんだから、チャレンジャーの気持ちで全力投球したいね。」

期待を感じさせるコメントに、前週の対局のことを聞いてみる。

「先週は半荘12回。今週は半荘18回。同じAルールだし、準備は万全だよ。」

と、こちらも問題ない様子。そして、

「ファンに対してワクワクドキドキさせるような対局をしたいね。平常心で、驕ることなく、油断することなく。ねっ。」と。

プロ入り当初からお世話になっている板川が、一回りも二回りも大きくなっていることを強く感じるコメントは、
今期の結果から来る自信の裏返しなのかもしれない。
しかし、そんなことは微塵も感じさせない謙虚で真摯な受け答えに、関西麻雀界を引っ張る板川の決意と覚悟が窺える。


前原 雄大


2位通過
前原雄大 九段 1期生
第12、25期鳳凰位
第14、15、24、25、26期十段位
グランプリ2008優勝
3年連続11回目の出場

「今までと別に何も変わらないよ。今までと違うのは…稽古の麻雀かな?」

鳳凰位決定戦進出を決めた直後、前原はそう語った。
実は決定戦に向けての調整を、リーグ戦最中から行っていた前原。

「今回の鳳凰位決定戦のテーマも早い段階で決まったよ。それは、『観の目』、『自然体』、『自己管理』。これは人の力が大きいね。」

と、他人事のように語る前原の精神状態は、思いのほか良さそうに映る。
それはやはり、多くの仲間たち(後輩たちのことを前原は総じてそう語る)に支えられているからなのかもしれない。

「ここまでは稽古の麻雀も順調に来ている。どんな結果が出ても、満足はしないが納得はするだろうと思う。」

昨年の十段位戦前の稽古では、絶不調が伝えられていた前原。結果も伴わなかったわけだが、
今回は万全な様子がその笑顔の裏から滲み出ている。

「今回の決定戦でも、今の力の八割は出せると思うが、それで勝つとも思わないし、勝ってもそれがゴールではない。
残された時間は少ないので、その分一生懸命麻雀と向き合いたいんだ。」

これが、偽りない前原の本音であろう。鳳凰位決定戦という高いステージでいいパフォーマンスをするために、
身を削って稽古を積んでいることに意味があるんだと。
そして、その先に大事なことがあるんだと私に伝えてくれているんだと、私はそう感じられずにはいられなかった。
背中に電気が走るような衝撃を感じ、私は急いでメモを走らせた。

さて、前述した『テーマ』については後程個別に説明するが、それらは稽古の積み重ねから発したテーマ。
前原雄大という男は豪快な男に感じる方が多いかと思うが、実は極めて緻密で繊細な心の持ち主である。
“仲間たちと共に戦うんだ”という想いを、インタビュアーの私に伝えることで、
周りへの感謝の気持ちを伝えるその心遣いと優しさに、“仲間たち”がついていくのだとも思う。

数時間にも渡るインタビューの中で、前原が語った一番印象に残るフレーズは、

「10年後の連盟を見て今回は戦いたい。」

それは決定戦後、どのような結果が待ち受けていたとしても、連盟の将来にプラスになるような戦いをしたいということであろうし、
そういった内容の対局を4人で創り上げていきたいという前原の想いなのであろう。


沢崎 誠


1位通過
沢崎誠 八段 3期生
第13期十段位
第16期麻雀マスターズ
第2期新人王
第7期雀魔王
グランプリ2007優勝
第15期チャンピオンズリーグ優勝
6年ぶり4回目の出場

「いいメンバーが揃った。内容的には面白い。」

リーグ戦10節をオールプラスでぶっちぎった沢崎も、内容には聊か不満が残ると語る。

「1年間オールプラスで、330Pは物足りない。」

これだけの数字を積み上げてもおいそれと言えるコメントではないが、どうやら真意は他のところにあるらしい。

「昔は、『早い、安い』が一番だと思っていた。でも今は違うスタイルが求められている。自分はどんなスタイルの麻雀も打てるし、対応もできる。
ここまで、長い時間をかけて1つ1つの部品を磨いてきた。
今までは1つの部品で戦っていたが、今は磨いた部品の集合体で戦うから“遊び”(注)ができるんだ。」※沢崎独自の表現方法。

そんな沢崎が今回の決定戦を評して、

「今回の鳳凰位決定戦は、世代交代があるかどうかだ。」

続けて、

「力は前原、沢崎が上だが、勢いは2人のほうが上だ。」

この世界で生き抜く者として、結果を残すことだけが全てという時代が、長きに渡って続いてきたことも現実としてはある。
しかし、それではいけないんだということを感じているからこその次のコメントである。

「TVの世界や、ファンの世界へのアピールをした上で、麻雀界が喰える世界になってほしいんだ。」

これは沢崎と前原に共通する強き思いなのだろう。
だからこそ、世代交代を果たしてほしいし、沢崎、前原という大きな壁を乗り越えてほしいからこそのエールなのだ。

もちろん、全力でぶつかって、全力で勝ちに行く。
そんな感情を感じるのが、

「麻雀は自分が楽しむゲーム。自分が楽しくなきゃ見ている人は楽しくない。初日勝負!攻めていって初日6連対が目標。ぶっちぎりたい。」

リーグ戦をぶっちぎった男の、スタートダッシュが成功するか否か、これが勝負の分かれ目なのかもしれない。


瀬戸熊 直樹


現鳳凰位
瀬戸熊直樹 七段 14期生
第26期鳳凰位
第6、9期無双位
第14期發王位
第13期チャンピオンズリーグ優勝
2年連続3回目の出場

「防衛したいなぁというのが素直な気持ち。」

1年間『鳳凰位』として在り続けること。それは周りが思うほど簡単なことではない。
全ての連盟員が夢みる、『鳳凰位』の重みは、手にしたことがないものには量り知ることができない。

それでも、

「他のタイトル戦よりも、鳳凰位決定戦だけは自信がある。自分の麻雀を貫ければ…」

と語るのは、自身の稽古の充実に他ならない。そして、

「板川さんが太閤位を獲ってくれてヨカッタ。内心取りこぼすなよって思っていたから。」

と、対戦者にもエールを送ることを忘れないのは、いかにも瀬戸熊らしい。

4者にインタビューを試みて共通すること、それは各人が自然体でこの鳳凰位決定戦に臨むということだ。
それは、リーグ戦や他のタイトル戦を通じて、嫌というほど対戦をしている勝手知ったる相手との対戦だけに、
自らの良さを引き出すことが勝利へ直結することを身をもって感じているからに他ならない。

が、唯一、瀬戸熊だけが対戦相手についてのコメントを発してくれた。

「ゲーム展開は考えていますよ。対戦相手の癖は知っているので、相手の癖が出たらこうするんだ、とか、自分がやってはいけないことなど、
自分自身の決まりごとは自分なりにチェックしています。」

さらに、

「今回の決定戦は相手が強いのでやりやすいかも。」

意外とも言える一言に真意を訊ねると、

「十段位の堀内プロやマスターズの樋口プロのように、実は僕は初顔に弱いんでこの方が戦いやすいんですよね。」

対戦回数が増えるほど勝率が上がるというのは一流プロにはよくある話。
裏を返せば、1年間3者の対局をじっと観戦してきて対策を練ってきたということでもあるのだろう。

「ここまできたら相手が強いのは当たり前。今までは、勝ちたい、負けたくない、という気持ちが強かったが、今回は”鳳凰位らしく”戦いたいです。」

瀬戸熊の一年間の想いをのせた戦いが、今ここに始まる。



1回戦(起家から、瀬戸熊・沢崎・板川・前原)

【初動】

スタートダッシュを決めたいんだと語ったのは沢崎。
「着順が4、4、4、でもいいんだ。だけど3、3、3じゃダメだろうね。」
これはエンジン全開で緒戦からぶつけていくという覚悟なんだろう。

対して板川は、
「我慢して、我慢して…最終日勝負!」
と、自身のプランを明かしてくれた。
これは18回戦通して観戦すると、板川の思惑が手に取るように感じられるのであるが、こと開局に関しては2人の意思とは裏腹なスタートとなるのであった。

東1局、局面先手を取ったのは、親・瀬戸熊。9巡目にポンで、

 ポン ドラ

そこに勝負は3巡目からドラ暗刻の1シャンテンだった板川。12巡目に追いつき、以下の選択。

 ドラ

ここから板川は打を選択。シャンポン待ちに受け即リーチ。
瀬戸熊も14巡目にを引きシャンポン待ちでの勝負。結果は、2人テンパイで終わったのだが…
無念は板川。皮肉にもカンに受けていれば2巡後ツモであったが胸中は如何に。

この結果にめげることなく攻める板川。東1局2本場、初アガリは板川の手中に。

 リーチ ツモ ドラ

1,300・2,600で安めとはいえまずは板川がリード。ここから4者の叩き合いがスタートする。
東2局、まずは瀬戸熊の番。9巡目にこのテンパイを果たすと、

 ドラ

これはダマテン。11巡目にツモでリーチ。

 リーチ ドラ

対局を通して感じたことなのだが、これが今対局の中の瀬戸熊の“決め”の1つだったのではないかと思う。
今後、リーチ選択やダマテン選択の基準が問われる際の瀬戸熊の判断を随時記載するので、皆さんも想像してみると面白いでしょう。
これを前原から打ち取り、瀬戸熊も初アガリ。

続いては前原。東3局と東4局、連続で、

 ドラ

 ドラ

どちらもツモアガリとは前原らしい。これで前原も追いつく。

大きな動きがあったのはここから。東4局、自然な手牌進行からドラを重ねた瀬戸熊が5巡目リーチ。

 リーチ ドラ

ここに同じ七対子1シャンテンの前原が飛び込んでしまう。
このアガリで気を良くしたか、次局も瀬戸熊が攻める。

南1局、親・瀬戸熊、完全先手の3巡目リーチ。

 ドラ  

ここから打でリーチ。
麻雀に、たら、れば、は禁物だが、もし仮に瀬戸熊がテンパイ取らずの打とすると、 6巡目ツモ、打の仮テン。
のシャンポンで、前原が7巡目にをツモ切りで12,000となっていたのだが…(それでも瀬戸熊はペンでリーチを打つと思うのだが)

ここで登場は沢崎。14巡目、ようやくの三色テンパイも、

 ツモ ドラ

マンズかピンズツモのテンパイなら放銃回避と思っていたのに、よりによってツモとは…
沢崎、苦しい1日が始まる、とメモを走らせようと思った矢先、なんと沢崎は打!そしてリーチ!

この牌姿から、を切れる打ち手がいったい世の中に何人いるのだろうか?まだ1回戦、それも南入したばかりである。
多少の失点はカバーできるはずだと考えるのが妥当であろう。しかし、沢崎の思考は違っていた。

「早いリーチだけにね、愚形も十分あるところだよね。安全度からいってもよりはのほうが危ないでしょ。
まだ開局なんだし、三色だって確定しているわけじゃない。ドラもなんだし、だったら、を切る方が自然なんだよ。」

と聞いたものの、未だに私は半信半疑でキーボードを叩いている。やっぱりロマンを求める私には切れる打牌ではないのだろう…。
とはいっても、ドラは瀬戸熊の手中に暗刻。そしては純カラ。さすがに流局かと思われた瞬間、沢崎の手にはなんとが!!
これを見た瀬戸熊、捨て牌と手牌を照らし合わせてさすがにダメージを受けたとのちに語る。

「さすがにそこは切るっしょ〜。の在り処を知っているのは自分だけなので、ピンズの形に違和感を覚えてもさすがに周りはそこまでわからないしね。」

あっと驚く2,000・3,900で負債を一気に完済。これがA1リーグダントツ首位通過の実力か。
その後、前原の1,300・2,600ツモと自身の放銃でラスに転落した沢崎。再びオーラスに輝く。
南4局1本場、5巡目にテンパイを果たした沢崎だがこれをテンパイ取らず。

 ツモ 打 ドラ

これが妙手。三色の渡りを考えとりあえずの仮テンを組むのも一考だが、ここで沢崎は打
ツモ、ツモ、ツモでリーチ。そして高めを一発ツモ。

 リーチ ツモ ドラ

鮮やかなアガリ二発で、沢崎が緒戦を飾る。思い通りのスタートダッシュに気持ち良く次戦に進めることだろう。
板川、瀬戸熊も上々の滑り出し。
対して前原はらしくない。内容はともかく、本来の“体で打つ麻雀”ができていないことに不安を感じた。
1人沈みのラススタートとなったが、間違いなく体勢を整えてくるだけに次戦以降に期待したい。

1回戦成績

沢崎+10.3P  板川+4.8P  瀬戸熊+2.4P  前原▲17.9P



2回戦(起家から、前原、瀬戸熊、沢崎、板川)

【反応】

1回戦の鮮やかな逆転トップの勢いそのままに、沢崎が序盤から飛ばす。
西家・沢崎、東1局1本場、4巡目にポン、5巡目ツモであっさりテンパイ。

 ポン ドラ

親・前原もテンパイを果たすも、沢崎がしっかりと高めのツモで2,000・4,000。今半荘は鼻を切る。
続く東2局、今度は瀬戸熊の攻め。11巡目、理想形でのリーチ。

 リーチ ドラ

そこにぶつけるのは、ドラ暗刻の前原。リーチを受けた瞬間、

  

ツモ、ツモ、と丁寧に瀬戸熊の現物を切り、ツモでテンパイを果たすと覚悟の切りリーチ。

 リーチ ドラ

前原が追いついた時点でが2枚、が2枚。対して前原のは1枚。
14巡目、板川にが吸収された為、瀬戸熊の高めでの決着濃厚かと思いきや、前原がを掴む。
前原にしてみれば、瀬戸熊の牌姿を見てホッと一息。逆に瀬戸熊は、1回戦の同様、あまりいい思いはしないだろう。

東2局1本場、この局が前半戦のキー局となった。

親・瀬戸熊、パッとしない牌姿の2シャンテン、ここから2枚目のをポン。

  ドラ

そして、打。この時、西家・板川。

 

北家・前原。

 

板川は1シャンテン、三色移行もある盤石の形。そして前原は三色を視野に入れた2シャンテン。
しかしこの鳴きで、本来前原がツモるはずのツモが板川に流れる。と3枚立て続けに流れ、そしてとどめはツモ
本来の前原のツモ筋では、

 ツモ

こうなっているはずだった…。もちろん上記の形では前原はリーチと打って出る公算が高く、3,000・6,000のツモアガリになる1局だったのだ。
この仕掛けで板川は撤退を強いられ、対する瀬戸熊はツモ、ツモでテンパイに持ち込む。

 ポン  

このあたりの反応と嗅覚が瀬戸熊らしい。これも稽古の賜物なのだろうと。
苦しいのは前原。もちろん、板川に流れた牌の確認はできないだけに本人たちにはわからないが、タンキの5,200、タンキの8,000、そして前局の
全て前原→瀬戸熊という動きだけに、前原としては早々の対応策を練らなくてはならないはずだ。
この瀬戸熊の見えないファインプレーに、4者とも影響があったとは感じられないが、ここから少しずつ沢崎の歯車が狂い始める。

東4局1本場は瀬戸熊の速攻に捕まる。2巡目ポン、3巡目ポンで、

 ポン ポン ロン ドラ

南1局6巡目、まずは前原がポンテン。

 ポン ドラ

この仕掛けで、前原の急所で当たり牌である4枚目のが瀬戸熊に流れる。
それを受けて瀬戸熊はホンイツ移行。そして瀬戸熊はをツモ切り。

鳴かなければ、ここで前原のアガリ手順が発生。をスルーしてツモ。
そして打と取れば自然な1,300で終局したのだが、前原の当たり牌は瀬戸熊の手牌にすべてあるだけに、結果縺れることとなる。

7巡目板川、トイトイ含みの七対子1シャンテンも、上家・沢崎から打たれたをスルー。
9巡目、前原からツモ切られたを今度はポンでこの形。

 ポン ドラ

同巡、沢崎、三色1シャンテンからツモで打

  

このを板川はチー。そして打で、のシャンポンに受ける。

 チー ポン 

この仕掛けで沢崎には生牌の。当然の打。同巡、板川がをツモ切り。沢崎が板川の当たり牌であるをツモ。合わせて打

このに瀬戸熊が動く。

 ポン

そしてこの仕掛けで沢崎ツモ
ここで打つ牌が無くなった沢崎は、打で板川に放銃となる。

今局は、各人の反応のタイミングによって結果がガラリと変わる興味深い1局となった。
前原の仕掛けがなければ前原。板川はスルーポン、そしてシャンポンに受けたことでアガリを拾い、瀬戸熊のポンがなければ、結果はどうなったかわからない。
そして一番の勝負手は沢崎。板川と瀬戸熊の仕掛けのタイミングの良さによって、結果的に勝負手を阻止される形となった。

そして南2局は、沢崎自身もテンパイながら瀬戸熊に5,800を献上。

 リーチ ロン ドラ

この放銃で首位争いから脱落。好調な滑り出しも一転、ここから苦しい1日となった。
さて、ここまで苦しい展開が続いた板川、南3局1本場、ワンチャンスをモノにする。15巡目板川リーチ。

 リーチ ツモ ドラ

この一撃で浮きの2着に浮上。瀬戸熊に食い下がる。結果、1回戦トップだった沢崎がラスに転落。マイナスへ。
うまく立ち回った瀬戸熊が変わって首位浮上。板川もプラスで続く。
長い18回戦の戦いなのだが、結果的にこの半荘の動きそのものが、鳳凰位決定戦の動き全体を左右するものになるとはまだ誰も気がつかない。


2回戦成績

瀬戸熊+21.0P  板川+5.1P  前原▲4.7P  沢崎▲21.4P

2回戦終了時
瀬戸熊+23.4P  板川+9.9P  沢崎▲10.7P  前原▲22.6P



3回戦(沢崎、板川、瀬戸熊、前原)

【明暗】

東1局4巡目、瀬戸熊が早くも1シャンテンに。

 ドラ

しかしこれがなかなか引けない。対する板川も同巡1シャンテン。

 

ツモ切りを続ける瀬戸熊を尻目に、板川は手が動く。ツモ、ツモ、ツモ、ツモ、そしてツモで最良のテンパイ。
テンパイを果たしていた瀬戸熊から値千金の5,200をゲット。頭一つ抜け出す。

  ロン 

瀬戸熊も黙ってはいない。東3局、自身の親番で9巡目リーチ。
時間はかかったものの、ツモアガリで一気に負債を完済。

 リーチ ツモ ドラ

この半荘も2人がリードする展開になるのでは…と感じていた矢先、眠れる獅子が突然目を開く。
東4局、前局に2,600は2,900をアガり、瀬戸熊の親を落とした前原の親番、ここで前原は劇薬を盛る。
3巡目、突然のポンで打

 ポン ドラ

『自然体』
これは前原が対局前、テーマに掲げた1つである。この真意を聞くと、

「自然に打つこと。局に限らず、牌の来た意味を考える。空[クウ]の状態。」

このテーマが、今半荘の明暗を分けるキーワードとなる。
ドラが2枚とはいえ、なかなか声が出ないこのポンは、やはり前原も必死に稽古を積んできたからに他ならない。
アガって迎えた親番で、ドラがトイツの配牌が来る意味。そして、場にが放たれる意味。
それらを複合すると、ここで『ポン』の声を掛けるために、必死で稽古を積んでいるということなのだろう。

前原の3巡目のポンは、ドラのトイツ以上か、速攻を意味することを対戦者は心得ている。
そしてそれを証明するようなアクションが起こる。4巡目沢崎、の暗槓。場に緊張が走る。

 暗カン ドラ

これで、を使ったメンツ構成が困難になる。すると考えられるのはやはりドラのトイツ以上が濃厚…。
だからこそ、沢崎はの暗カン。戦う姿勢を明確に示すが…
5巡目、ここで沢崎ツモ。とりあえずのテンパイだが、この形では勝負できぬとはツモ切り。7巡目ツモ。ここは仮テンに受ける。打。 

  暗カン

すると次巡、沢崎がツモ切ったを板川がチー。

 チー  

この仕掛けで、板川がを引きこむ。そして打。板川もテンパイ。沢崎11巡目、ツモ
待ち望んだ形とは到底言えないが、勝負できる形にはなった。さてどちらに受ける?
場には、が2枚、が2枚、が1枚、が1枚。沢崎が選んだのは…打。が、リーチは打たず…。
これは賛否両論あるが、戦うのならリーチが自然かと思う。が、ダマを選択。それはなぜだろうか?

それはやはり、前原の3巡目ポンだからなのだろう。
事実、沢崎の暗槓を受けて、カンのカンチャンターツを外しにかかっている前原の手牌を想像するに、
確実にドラのトイツ以上が見えるだけに、形だけでぶつけることができなかったものと推測する。
そうさせないのが前原の強さなのだろうし、ここでぶつけないのが沢崎の強さなのだろう。
しかし、結果は皮肉にも如実に表れる。

同巡、瀬戸熊打、次巡、前原打。2度のアガリ逃し。そうなると風は前原に吹く。
14巡目、待望のテンパイを果たした前原。しかし受けは自身がポンした-

 ポン

同巡、沢崎、3度目のアガリ逃しになるツモ。打とするものの、これでは当然勝負にならず。
ここで前原ツモ。自然に打でシャンポンに受け変える。
こうなると不思議なもので結果は自然に見えてくる。当然のツモ

 ポン ツモ

ここまで、手役よりもスピードを優先してきた感の強い沢崎。前原のポンを受けたばかりにここで初めて保留の選択。
結果、最悪の裏目になったが、ここは沢崎を責めるより前原の『自然体』が勝ったということなのだろう。
たった一本だけのアガリへの道筋を見つけられること。それはやはり稽古の賜物だと、観戦者に伝えた瞬間であった。

この状態になった前原の強さを、3者は誰よりも理解している。それを食い止めたのは、やはり瀬戸熊。
南3局5巡目、一手変わり三色のテンパイも、

 ドラ

9巡目ツモ。自然な手順でリーチ。そしてをツモって2,000・4,000。

前原に傾きかけた流れを、自力で引き戻す瀬戸熊の力強さ。ここから瀬戸熊のラッシュが始まる。ここから怒涛の3連打。

 リーチ ツモ ドラ

 ポン ロン ドラ

 ロン ドラ

これで一気に前原を交わし首位に躍り出る。
こうなると、やはり3者の意思はリンクする。ここは瀬戸熊の親を落とすこと。
南3局3本場、まずは2巡目板川、ポン、7巡目ポンで、

 ポン ポン ドラ

6巡目、前原が応戦もポンは少々強引か。

 ポン

なんとこれが幸いし、ツモ、さらに板川のポンでツモ

 ポン

しかしこの後が拙かった。ツモでなんとこのドラをツモ切り。板川に3,900は4,800を献上。
初日終了後、前原が最も悔いていたのがこの打。さすがにここは普通に打が正着だろう。

「麻雀が不純だよ。」

とは、対局後の前原談。これを引き金に、次局も大ダメージを負うことになる。

南4局、緊張の糸が切れた感のある前原に不幸が訪れる。7巡目沢崎、

 ドラ

何かに吸い込まれるように、前原の手にはが。そして前原が沢崎に8,000放銃。
これで前原はマイナスに転落。あれだけあった貯金をすべて吐き出してしまった。

「前局のを打つから、を打たないから、だからを打つんだ。」

この半荘、前原にとっては鳳凰位奪取の大きな足掛かりになるはずだった。

『自然体』「自然に打つこと。局に限らず、牌の来た意味を考える。空[クウ]の状態。」を『自然体』でポンする前原。
その前原が最後まで『自然体』で打ち切ることができたなら、もう少し純粋に、ピュアに牌の声を聴くことができたなら、
この結果になることはなかったのだろう。
だが、まだ戦いは始まったばかり。もう一度前原が『自然体』を取り戻す瞬間は、すぐそこまで来ているのだ。

3回戦成績

瀬戸熊+28.2P  前原▲1.8P  板川▲8.7P  沢崎▲17.7P

3回戦終了時
瀬戸熊+51.6P  板川+1.2P  前原▲24.4P  沢崎▲28.4P



4回戦(起家から、板川、前原、沢崎、瀬戸熊)

【後先】

東1局、前回のうっぷんを晴らしたいのは前原の心からの思いだろう。南家・前原10巡目、

 ドラ

ここから、ツモ、打。しかしこの好牌も牌が無い。
もうすでに、が3枚、が1枚、が2枚、が2枚、が2枚、が2枚場に走っている。
そしてドラが。何とかしたい形だが、さすがに牌が無いことには始まらない。

そんな最中、この2枚目のを沢崎が仕掛ける。

 ポン ドラ

さすがの沢崎でもこれはさすがに遠い。しかし、この沢崎の仕掛けによって、前原に利が向く。
同巡、前原ポン、打。このを沢崎がポン、打
この2つの仕掛けで、本来前原には届かない急所のが親・板川へ。
板川が沢崎の現物をツモ切ると、当然、前原はチー。そしてドラを勝負。

 チー ポン ドラ

そしてハイテイツモが前原へ。こうなると何かドラマが起きそうな予感がする。
ツモった本人も驚きの、大きな大きな3,000・6,000。
先程の大きなミスを一瞬で帳消しにするアガリに、前原の表情にも安堵が広がる。

この局を別視点からも検証してみよう。沢崎が仕掛け始める3巡前、7巡目、瀬戸熊、

 ツモ

ここまで場に大きな偏りもなく、ここは打でテンパイを取った瀬戸熊。
するとツモ。よくある話だ。

このタイミングで沢崎が仕掛け、合わせて前原も動く。
ここで瀬戸熊が掴んだのは生牌の。当然受け変え打。さらにツモは沢崎の一色手と同じ色。の選択で打
すると前原ツモ切り。さらに瀬戸熊ツモ

3度のアガリ逃しの後には、大きな転機が訪れる。
前原のツモの後、一瞬だが瀬戸熊の表情が曇った。瀬戸熊のギアがチェンジした瞬間でもあった。

時は進んで東4局、瀬戸熊の親番で岐路が訪れる。7巡目、

 ツモ ドラ

もちろん何を切っても間違いではないが、瀬戸熊は打を選択。
すると9巡目、前原からリーチがかかる。

  リーチ ドラ

同巡、瀬戸熊ツモでテンパイし、打の仮テンに受ける。そして15巡目、ツモはドラの
全くの躊躇いなしに、ノータイムでリーチを宣言する瀬戸熊。

 リーチ ドラ

これは流局に終わるが、瀬戸熊のこの鳳凰位決定戦に対する『覚悟』を垣間見る瞬間だった。
好調の前原はさらに攻める。東4局2本場6巡目、今度も手役絡みのリーチ。

 リーチ ドラ

しかしこれを阻止するのは板川。10巡目にテンパイを果たすと、を勝負。
そして前原の待ちをツモ。

 ツモ ドラ

前原、どうも調子に乗りきれない。と言った方がいいのか、板川が食い下がっていると言った方がいいのか、  
トップ目に立っているとはいえ、まだまだ本調子の前原だとは言えないのがここまでの評価だ。

東1局の3,000、6,000からアガリがないまま迎えたオーラス、2度目のアガリを果たした前原。

 ロン ドラ

ようやく前原の片目が開くも、本調子にはまだまだ遠い。
対する瀬戸熊は、初のマイナスも、このような展開ラスは織り込み済みなはずだ。
たった1枚の牌の後先の連続で着順が決したこの半荘。静かな展開のこの半荘が、まさか嵐の前兆になろうとは…。

4回戦成績

前原+19.2P  沢崎+4.5P  板川▲4.6P  瀬戸熊▲19.1P

4回戦終了時

瀬戸熊+32.5P  板川▲3.4P  前原▲5.2P  沢崎▲23.9P



5回戦(起家から、前原、沢崎、板川、瀬戸熊)

【爆発】

今シリーズの板川はここまで、リーグ戦での戦い方と内容をガラリと変えてきた。
『後半勝負!』とインタビュアーの私に告げたように、手順をキチンと守り、字牌の扱いをより慎重に、他家の動向に注意を働かせる。
そして大きなカウンターパンチを放てるよう意識していることが観戦者にダイレクトに伝わるスタイルで、ここまでの4戦を戦ってきたのだ。
そして、トイツ手に照準を絞って手牌進行する局面が多く、実を結ばなかったものの、あわやという場面を幾度もなく演出してきた。

東2局5巡目、南家・板川自らが、「この残しが絶妙だった」と語る瞬間が訪れる。

 ドラ

ツモ、打。ここでの打が妙手。
1シャンテンということもあり、手牌をワイドに構えたい場合は、ツモ切りも十分に考えられるところ。
しかし、7巡目ツモ、八巡目ツモで四暗刻の1シャンテンに。そして12巡目、ツモで待望のテンパイ。そして14巡目、

 ツモ ドラ

板川の執念が実を結ぶ、価値ある8,000・16,000。ここまでトイツ手を意識してきた板川の積み重ねがここで一気に花開く。
この瞬間、順位点込みで板川が瀬戸熊を捕らえトータル首位に躍り出る。
こうなると、板川も戦い方のスタンスを変えてくる。東3局4巡目、親・板川は、

 ドラ

ツモ。ここで早くもドラのをリリース。
今日ここまでの戦い方では、一貫して打としていたはずだが、ここで一気に踏み込みを深くし勝負に出た。
すると、5巡目ツモ、7巡目ツモで気持ち良くリーチを宣言。

 リーチ ドラ

しかし、ここで登場はやはり瀬戸熊。8巡目テンパイもじっと息を潜める。

 ドラ

瀬戸熊の待ちは、板川の現物。
周りが反応しが場に放たれるのではと思っていたら、を引いたのはなんと板川。
板川の加点チャンスを自らの手で食い止め、親権を奪取。

思えばここまで、誰かがブレイクしそうなときに、それを食い止めるのは決まって瀬戸熊であった。
そして、そのエネルギーを上手く自身の勢いに転化するのだ。今回も、ここから瀬戸熊の逆襲が始まる。

9種9牌で流局したあとの東4局1本場、瀬戸熊の配牌。

 ドラ

ここから打。2巡目ツモ、3巡目ツモ、5巡目ツモで打リーチ。捨て牌は、

(リーチ)

これでは三色1シャンテンの沢崎も止まらない。

 ツモ ドラ

で放銃。この11,600は11,900を皮切りに、瀬戸熊のラッシュが続く。
続く東2局2本場、8巡目に瀬戸熊は七対子をテンパイ。

 ドラ

このドラタンキ、1回戦のタンキリーチや、4回戦の中ぶくれタンキを見ているだけに、即リーチを敢行すると思いきや、ここはダマテンを選択。
他家の手牌進行も進まぬ中、13巡目にラス牌のをツモって4,000は4,200オール。

さらに東4局3本場は、 ポン ロン ドラ

安目ながらも2,900は3,800。これで板川に肉薄。そして圧巻は東3局4本場、

 ドラ

このタンキはリーチ。先にテンパイを果たしていた板川から4,800は6,000。これで板川を置き去りに。
しかし、何故このはリーチで、はダマなのだろうか?
この謎は、18回戦を通しての戦い方を見ると後に解明されるのだが、この瞬間のアクションだけではまだ感じ取ることはできなかった。

なにはともあれ、四暗刻をツモった板川を、次の親番一発で捲り返す瀬戸熊のパワーには脱帽する。
こうなると3者が、この連荘をどうストップするかに焦点は集まる。

東4局6本場、どうしてもこの親を落としたい3者の動きに注目したい。
まずは板川。8巡目テンパイもさすがにダマ。

 ドラ

恐らく今日の板川の戦い方では、理想のリャンメン変化を果たしてもリーチとは打って出ないような気がする。
対して沢崎10巡目、自風のを暗カンしての1シャンテン。

 暗カン ドラ

次巡前原、こちらもダマテン。

  

役有りのテンパイだけに、ここはセオリー通りだ。が、13巡目、ツモで打リーチ。
役有りテンパイを役無しリーチ。これは常時では当然考えられないところ。
待ちの-もそれほど悪く感じられないのだが、これが前原の真骨頂。

「牌の来た意味を考える」

とはこういうことを指すのだろう。
同巡、沢崎も高めをツモりリーチを打つも、

 暗カン

ここは前原の嗅覚に軍配が上がる。

 リーチ ツモ 

劣勢の時にどう対応するか、自分の置かれている立場をどう判断するか、そして「牌の来た意味」をどう考えるか。
これが前原の逆境での戦い方なのだ。
このアガリ形を見た時、前原自身が3回戦での痛恨のミスを払拭できたように感じた。
そして近い将来、前原の“時間”が訪れるような気がしてならなかった。

四暗刻を成就させたものの、一瞬で並ばれ置き去りにされた板川の胸中はどうなのだろうか?
板川の表情を窺う限り、大きな変化は見られなかった。逆に、瀬戸熊の爆発を受け入れ、納得し、そして楽しんでいるようにも感じた。
それは恐らく、鳳凰位決定戦のステージの高さを肌で感じている板川だけの特権なのであろう。

瀬戸熊の連荘中、板川のスタイルが変化することは全くなかった。

「我慢していれば、いつか必ずもう一度チャンスがやってくる。」

という板川の心の声を投影するような摸打の積み重ねでもあったのだ。
南3局、そんな板川に再度チャンスが訪れる。まずは8巡目、じわじわと調子を上げてきた前原にテンパイが入る。

 ドラ

高め満貫のこの手、前原はダマテンを選択。
大きな並びができたこの半荘、ここは確実にアガることが、残りの戦いを左右することを感じているからだろう。
9巡目板川、こちらもテンパイ。

 

当然のようにダマを選択。しかし、このテンパイを前原は察していた。

「板川君がテンパイしたのを瞬間感じたからね、だからリーチを打ったんだ。」

とは前原。ツモ切りリーチを敢行。が、この選択が前原に利することはなかった。
リーチを受けた沢崎、自身の目から4枚見えているを頼りにを打ち出す。すると板川がこれを捕らえる。

このアガリで、再度瀬戸熊を逆転。トップに躍り出る。
苦しくなったのは沢崎。この放銃でマイナスが1万点を超え、3者に大きく離されることとなった。

こうなると、注目は今半荘のトップ争い。南4局12巡目、親・瀬戸熊はポンと仕掛ける。

 ポン ドラ

ドラが2枚も、実はがフリテン。が、そんなことは今の瀬戸熊には大きな問題ではない。
次巡、あっさりとツモで打の3面張に。
この仕掛けで前原はホンイツへ。14巡目、のチーテン。

 チー 

2人の仕掛けを受けて苦しいのは沢崎。珍しく完全に手詰まり。

 ドラ

はション牌、ピンズは前原の仕掛けに切れない。かといってソーズは瀬戸熊に危険だ。さあどうする?
こうなるとやはり手が掛かるのはソーズ。沢崎、そっとを切るもアウト。このアガリで板川を突き放す。

沢崎にとって苦難は続く。南4局1本場。

 チー ツモ ドラ

このアガリで前原までもがプラスをキープ。これで沢崎の1人沈みに。
この5回戦で大きな負債を背負い、今後を戦わねばならなくなった。

板川が見事なアガリを見せれば、前原も少しずつだが復調気配。だが、やはり瀬戸熊の良さが光る。
流れを断ち切るのも瀬戸熊ならば、親で二の足を使い加点するのも瀬戸熊。
ここまでは現鳳凰位中心の試合展開となるのだが、この後初日最終戦に、また大きなドラマが展開されるのであった。

5回戦成績

瀬戸熊+36.7P  板川+26.7P  前原+1.8P  沢崎▲65.2P

5回戦終了時

瀬戸熊+69.2P  板川+23.3P  前原▲3.4P  沢崎▲89.1P



6回戦(起家から、瀬戸熊、板川、前原、沢崎)

【甦生】

それは、なにげないチーから始まった…。
東3局10巡目、前原の親番、カンをチー。

 チー ドラ

次巡、急所のも鳴け、ここで前原あえて片アガリの打を選択。

 チー チー 

雀頭のの変化が期待できないとはいえ、ここでペンに受ける勇気はない。事実、この時点で山には1枚。
しかし、前原は何事もなかったかのように、そしていとも簡単にこのを引きアガる。

瀬戸熊といい、前原といい、自らの上昇へのスイッチの入れ方を本当によく理解している。
このツモを目の当たりにした瞬間、一瞬ではあるが場の空気が変わった気がしたのだ。
そしてこの後、私たち観戦者は前原がエネルギーを昇華させていく瞬間を目の当たりにするのだ。

東3局1本場、7巡目前原テンパイ。

 ドラ

ピンフのテンパイである。大きな手牌変化は望めないものの、ここは当然のダマ。
しかし次巡、牌を握った次の瞬間、前原は場を一瞥すると意を決したようにツモ切りリーチを放つ。
同巡沢崎、今日一番の大物手をテンパイ。

  ドラ

前原の捨て牌にはが。ここは瞬間ダマテン。しかし、2人が牌を合わせないことを確認すると、こちらもツモ切りリーチと打って出る。
が、前原は沢崎に1枚もツモ牌を確認させることなくをツモ。瞬間、目を伏せる沢崎。

この関係は次局も続く。
東3局2本場、沢崎8巡目、今度はドラ2枚使いの四暗刻1シャンテン。しかしこれがなかなか引けない。

 ドラ

対する前原、12巡目リーチ。

 リーチ

すると次巡、沢崎に待望のドラが。そして慎重にダマに受ける。

、共に山に1枚ずつ。しかもは前原の現物。
しかし沢崎のツモは無情にも。このを抑えるだけの手でもなく、無念の7,700は8,300放銃となってしまった。

2局連続の大物手を阻止され、沢崎に追う足は残っていない。こうなると前原をストップできるのは瀬戸熊だけだろう。
同卓者も、ギャラリーも、そして瀬戸熊自身もそう感じていたはずだ。

東3局3本場、8巡目前原リーチ。
このリーチを受けた瀬戸熊、次巡テンパイを果たす。理想のカンを引き込み、正面から前原に立ち向かう。

 ツモ ドラ

絶好の3面張。今日1日こういった局面で瀬戸熊は、毎回相手の猛攻を受け止め、そしてその力を自らの力に転化してきた。
今回もこの前原のリーチを、自身のエネルギーに変える…はずだった。

瀬戸熊が力を込めてツモった牌は、前巡ツモった牌と同じ。当然の一発ツモを期待したギャラリーも思わず息を呑む。
するとワンテンポ置いて、前原が静かに手牌を倒した。

 ロン ドラ

初日終了後、このリーチについて瀬戸熊は、

「あのはこたえたよ。」

と。そして、

「自分の体勢を崩されるとしたら七対子だと思っていたから。前原さんはさすがだね。」

前原のすごさは、この手をノータイムでリーチを打てるところである。
前原の目から、が3枚、が3枚見えているとはいえ、一瞬の躊躇もなくリーチを宣言できる判断力と洞察力。
それこそが前原が言う『自然体』なのだ。そしてそれは、まさしく前原自身の稽古の賜物と言えるのだろう。

それを証明できる局がもう1局。
続く東3局4本場、4巡目の牌姿だが、さあここで何を切る?

 ドラ

打牌候補は、か。
場況も特に偏りなし。ここで前原が選んだ打牌は打。しかもノータイム。

の縦引きを意識してリャンメン固定するを選ぶタイプの打ち手もいるかとは思うが、
ストレートなテンパイを見据え、なお且つのフォローが効いているをノータイムで打てることが前原らしい打牌であり、
十分な稽古を積んできたということなのだろう。

この局の結末は早々に現れる。5巡目チー打で最速テンパイ。
瀬戸熊もテンパイで追いすがるも、瀬戸熊から前原へ2,900は4,400の放銃。

こうなると前原は止まらない。

 ロン ドラ

 リーチ ツモ ドラ

そしてとどめは、

 チー ポン ツモ ドラ

ここまで不調だった前原が一瞬で生き返る魔法のチー。しかし、その結果が前原を立ち直らせたのではない。
その瞬間に体が反応できるように、声が出るように、鍛錬を積み重ねてきたからこそ現れた必然の結果なのである。
前原らしさが発揮されるまでかなり時間はかかったが、一瞬で瀬戸熊を捕らえ首位で初日を終えた。
明日以降、更なる上昇が期待できるだろう。

6回戦成績

前原+52.7P 沢崎▲9.6P 板川▲14.7P 瀬戸熊▲28.4P

6回戦終了時

前原+49.3P 瀬戸熊+40.9P 板川+8.6P 沢崎▲98.7P 


初日を終え、一番の笑顔は意外にも板川。

「いや〜、楽しかった。本当に楽しかったよ!」

『魅せる麻雀』を掲げる板川の戦いぶりは、対戦者にもギャラリーにも十分に伝わったはずだ。
このままゲームプラン通り戦っていければ、狙い通りの後半勝負にかなりの確率で持ち込めることだろう。
板川の笑顔の通り、私の目からも板川が一番思い通りの麻雀が打ち切れたように見えた。

逆に、苦しかったのは沢崎。
展開のアヤもあったし、不運も重なったが、リーグ戦オールプラスの安定感は感じられなかった。
「初日勝負!」と踏み込みを少し深くしたことも要因なのかもしれない。
が、1回戦で見せたようなビックプレーをきっかけに大爆発する可能性もあるだけに、まだまだ浮上のチャンスはありそうだ。

首位で終えた前原の感想は意外なものだった。

「僥倖の一言に尽きます。」

それは、偽らざる本音であろう。しかし随所に稽古の賜物だと感じさせるプレーがあったのも事実。
だが、前原の絶好調時を知っている者からしたら、若干の物足りなさを感じるだろう。
それは、裏を返せば前原の底知れぬパワーを期待するからなのかもしれない。
あと2日、怪物・前原の迫力ある闘牌を期待したい。

そして現鳳凰位瀬戸熊。

「全体的には良かったと思いますよ。6回戦以外はね。」
持ち味を如何なく発揮したように見えた瀬戸熊。ポイント的にも不満はなく上々の滑り出しといってもいいだろう。
しかし前原同様、まだまだこの先の瀬戸熊を見てみたいという期待が膨らんでしまう。
どのようなゲーム展開が待っているかはわからないが、やはり瀬戸熊中心で鳳凰位決定戦は推移していくものと思われる。


明日はまだまだ折り返し地点。
三つ巴の争いが続くのか、はたまた沢崎の巻き返しがみられるのか、興味は尽きない。
プロ連盟の最高峰に相応しい熱戦が、まだまだ続く。

 

 

 


(執筆:望月 雅継 文中敬称略)

                              

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