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グランプリ2006 

決勝戦観戦記


明治時代の随筆家・小泉八雲ことラフカディオ・ハーンは、1890年に移民先のアメリカから新聞記者として日本へとやってきた。
横浜港から山下公園へと続く道の途中、並木道の両脇から溢れんばかりに咲き誇る桜を見たときに、彼はこの国を終の棲家にせんと決意したのだそうだ。
桜の花自体は、故郷であるアイルランドにも、20歳から40歳までを過ごしたアメリカにもある、さほど物珍しいものではない、はずだ。
しかし彼にとって「40歳の自分が見た横浜の桜」は、人生を変えるほどの衝撃的なものだったのだろう。

私もまた、しかり。
「八雲の桜」の如く衝撃的なシーンに出会ったことが、マージャン競技を志しその成績に一喜一憂するそのきっかけになっている。
作ったのは、荒正義。

色々な意味で場違いの席に居合わせた、ある日のこと。
鼻っ柱だけは強かった私は、荒が卓上で発する強烈な威圧感に押しつぶされそうになりながら「あぁ、俺はこの男のような打ち手になりたい」と、心からそう思った。
その瞬間の背筋が凍るようなゾクゾクした刺激と、たぶんこの人に巡り合わなければよかったのにという想いを脳裏にちりばめながら。

あれから10年が経った。
未だ、道遥か…というより麓にすら辿り着けぬまま。されど志は変わらず。
ピンチに陥っても諦めが悪いのはマージャン打ちとして時には長所に働くこともある(グランプリ2005準決勝レポート)。

日本プロ麻雀連盟 2006年度最後の公式対局となる「グランプリ2006」決勝メンツは、荒正義(A1)、古川孝次(A1)、瀬戸熊直樹(A1)、滝沢和典(A2・王位)。
荒・古川のプロ連盟一期生に、セト・タッキーのイケメン実力派コンビが挑むという図式。
ここ数年、私が定点観測的に対局風景を見つめてきた者たちばかりであっただけに、やはりという思いと、自分がまた一歩引き離されてしまったという砂を噛む様な思いとが入り混じる。

…昨年のグランプリ決勝前夜。
観戦記を瀬戸熊が書くと聞いていたからだろうか、寝る間際にもう10年近くも前のあるエピソードを思い出していた。
「今里さん、僕会社辞めたんですよ」同卓した刹那、彼はそう呟いた。一拍おいてから「マージャンで生きていくために」と今度はやや大きな声で続けて、それから何事もなかったかのように僕らはマージャンを打ち始めた。
その日のセトはちょい負け。サラリーマンとしての仕事を辞める気などみじんもなかった私はちょっとだけ浮いた。
帰り道、私はずっとある事だけを思い続けていて、でも口に出すのが野暮な気がしてそのまま別れた。
たぶん彼が「マージャンで生きていくために会社を辞めた」と、この順番で私に語りかけていたなら、きっと大勝していたのだろうなと…。

彼や藤崎・二階堂亜樹・朝武が「マージャン打ち」だとしたら、私はいったい何者なのだろう。 そんな事を考えているから…(以下略)。

その意味でいうと今回のメンツは、誰がどうみても120%マージャン打ちの塊なワケで、この対局を見つめるギャラリーにとって「八雲の桜」となる機会が起こればいいのになぁと思いつつ、開局を告げる宣言を静かに待っている4人の表情を見つめていた。うん、皆気合の乗ったいい顔だ。まぁタッキーはいつもイイ顔だけどね♪

一回戦東1局。

  ドラ から3巡目に西家滝沢が放った初牌の に北家古川が食らい付く。場に不穏な気配はなし。強いて言えば、親の荒がすべて手出しで と打ってること位か。





古川孝次。今期の鳳凰戦でも望月と最後の最後までデッドヒートを繰り広げた、大ベテランだ。
実績も十分(阿佐田杯4連覇、鳳凰位3連覇)。

その古川が破竹の鳳凰位連覇を続けていた頃、私はかなり否定的に彼のマージャンを見ていた気がする。
後ろで眺めていて、実にこの種の仕掛けが多い。よく言えばケレン味のない、悪く言うと…いや、よしておこう。

で、安藤満に聞いてみた。
答えは一言。「それが古川さんの生き様だから」と。
そう言われて、見る目がガラリと変わった気がした。
たぶん、このスタイルがどういう見られ方をされるのか、自分自身が一番よくわかっているのだろう。
それでも自分はこのマージャンを貫き通す。頑固で意固地で自信と誇りに満ち溢れている男、昔はこんな男たちが世に溢れていたような気がする。
いつからか頑固オヤジは色々な世情のしがらみに迎合し、ヘンに物分りのいい大人ばかりになってしまった。
普段の古川は若い人にも謙虚で笑みを絶やさないのだが、真っ赤な血潮が流れるマージャン打ち同士の戦場では、詰まるところその人の考え方や生き様が如実に現れてしまう、そういうことなのかもしれない。

11巡目に滝沢からカン で1,000点を打ち取った古川は、結局この初戦3度のアガリを拾いながらも東3局1本場で滝沢に打った5,200点が響きラスに終わってしまう。

そのオーラス1本場、4巡目に、

  ドラ  

古川25,600 東家 (※起家から 南家・荒28,500 西家・瀬戸熊29,000 北家・滝沢38,600)

となるも、ここからろくに有効牌を引けぬままシャンテン数で皆に追い抜かれてしまう。(瀬戸熊はこの後2フーロでトイトイの5,200を狙いに行き、滝沢はチャンタ含み、荒はメンタンピンリーチで1,300,2,600をツモってトップに)。
古川の間合い、6回戦を闘う彼なりのステップ、本当にここまで攻めたほうが得なのだろうか・・・。
緒戦からこうして主導権を争うそのテンションの高さを身につけているさまが、羨ましく思えて仕方なかった。たぶんハートの強さが尋常でないのだろう。
皆、人一倍摸打が早いからだろうか。麻雀競技としてはかなり早くわずか30分強で1回戦が終了。





二回戦もまた、東3局1本場、滝沢→古川の1,000+300(食い一通)を皮切りに小場の展開が続くかと思われたが、南1局2本場に大きく局面が動く。

ドラ のこの局、南家古川が3巡目に
から二枚目の をポン。
続けて でチー。
と打ってなお初牌のダブ とカブせる親の瀬戸熊はチートイドラ2のリャンシャンテン。
しかしその積極的な攻勢がテンパイに結びつき、11巡目にドラの タンキでテンパイ、即リーチ!
ただしこの時点でカラテン(古川は のシャンポンテンパイ、ベタオリの荒に が一枚)。
古川と瀬戸熊の一騎打ち、そう思っていた瞬間、滝沢が をすっと卓に置いた。

卓の空気が変わる。瀬戸熊の目が1.4倍くらいに見開く。

滝沢は のチートイのみのテンパイ。
場に は一枚。



とかくルックス先行型に見られがちな滝沢だが、彼の押し引き、特に受けの技術に関しては間違いなく現在のマージャン競技選手の上位に位置すると私は思っている。

イーシャンテン〜テンパイ時の受けがとかく的確(実際にロン牌を止めたかどうかという問題よりも、その局面における危険牌を打って自分に利があるかという判断力と精神力の部分で)な場面を、私はこの1〜2年でまざまざと見せ付けられてきた。
それだけに、この が心底腹の据わった怜悧な一打であり、おそらく滝沢はこの局面で自分が捉えに行かなくてはならない匂いを感じているのだろうなと思うと、見ている私の鼓動までが早くなっていく。
結果は瀬戸熊→古川の8,000+600となったのだが、しぶとい瀬戸熊はすぐに6,400(チートイドラ2)のリバースを古川から受け取るとさらにアガりをものにし続け、トップまで突き抜けた。
荒は痛恨のラスで滝沢・瀬戸熊がやや先制。





三回戦はその滝沢が大きく崩れた。
開局早々、ドラ で 8巡目に
  ポン の高め親満のテンパイ、と思いきや既に 二枚切れ。 が山残りである根拠は何も感じ取れないような捨て牌が卓上に広げられている中、北家の古川がその二巡後に でチーして

  
チー
のテンパイを果たす。
南家の荒もやや滝沢に打ちにくいはずの をブン。そこに引いたドラ表示牌の 。さすがにこれで に手をかけ……なかった。そのままツモ切り?
おいおい、何が見えてるんだタッキー!?と思う間もなく、2巡後の で荒に三色ドラ1の5,200放銃。こういう滝沢を見るのは本当に久しぶり。

これはズブズブ行くのかも…と思う次局、今度は逆に踏みとどまる場面が。
ドラ 、滝沢のイーシャンテンは五巡目。

のマンガンがすぐそこに見える形。 

ただこの局は他の三人も手を進めていて、

親の荒は   
南家の瀬戸熊は  
西家の古川は という状況。

この四人の中では一番厳しいかと思われた古川が七巡目に

でリーチを打つのだから、ある意味マージャンというのは非情なゲームだと思う。

さらに荒も
で追いかける。
そこにひょっこり が。いや普通こんなのウタねーよ。…そりゃそうだけど、なんかこういう自分だけ…ってのは妙に心がササクれだちません?
当然ながら滝沢はノータイムで二人の現物 を中抜きし、以後ほとんど前に出る事のないマージャンに徹するも、逆に荒・古川・瀬戸熊三者怒涛の攻撃に10,000持ちのラスという結果に終わってしまった。

(前半3回終了時点、古川+15.7p 瀬戸熊+1.5p 荒+1.1p 滝沢▲18.3p)





滝沢の不調は4回戦も続く。実質的に俵を割ったのは南1局。

15巡目と長引いたが、

  ツモ のテンパイ。 ドラ
いつもなら、巡目遅いけどリーチするかなとワクワクする牌姿ではあるが、既に北家の瀬戸熊が と2フーロ( は2枚切れ)でピンズホンイツ模様。 西家の古川も を早々にポンして、こちらはワンズホンイツ模様。 で、南家の荒はというと第一打の 以外オールツモ切り。前巡は瀬戸熊に危険な もこともなげに引き放っている。
不穏な空気満々、だけど通るのは今上家がツモ切った だけ。



滝沢は一瞬 に手をかける。と思いとどまり今度は の上に指を滑らす。逡巡の後、彼が抜いたのは だった。
実は第一打からドラと のシャンポンでテンパイしていた荒の手が倒される(瀬戸熊が一巡目に をポンしており、ダブりーではない事も含め、手替わり待ちでずっとツモ切りを繰り返していた)。

滝沢は11巡目 

に引かされたこの に相当違和感を受けたのだという。
を抜かずに終局(もしくは連荘)する姿を見続けてきただけに、私もこの局滝沢が放銃した瞬間思わず声が出そうなほどの驚きを感じた。滝沢ファンの私のとっては驚きというより若干寂しい一打だったように思う。
同じ でありながら二回戦の とは180度趣きが異なる打牌であり、込められた意思の力がこの瞬間、滝沢の身体全体からすっと抜けていくように思えたのは、決して気のせいではないのだろう。
この後、再三にわたり仕掛けの妙味溢れる一色手のテンパイなど大物手の成就に後一歩の所までこぎつけるものの、滝沢のもとにチョーマ(点棒)が集まる事はないまま彼にとってのグランプリは終わりを遂げた。
一方の瀬戸熊。全般的に手牌の伸びもよく、またアガりもこまめに拾っているのだが、決め手が出ない。
なぜなのだろう、明らかに不安定な仕掛けを繰り返す古川の方が逆に安定感を覚えてしまう…。
経験値?そんなもんじゃないと思う自分と、さもありなんと考える自分とが、瀬戸熊の俯き気味の丹精な横顔をじっと見つめていた。






五回戦は古川が60,000点を超える大連荘をしてトータルトップだった荒を交わしそのまま突き放すかに思えたが、南場に入り今度は荒が6本場まで積む連荘で一時半荘のトップを交わす。
最後に再び古川が再逆転トップをもぎ取り、五回戦を終えてほぼ荒・古川のふたりに優勝の行方は絞られた模様。
しかし昨年度の發王戦でもあった「瀬戸熊・狂気の大連荘」だって十分可能性はある。マージャンに絶対はないワケでその意味では滝沢にだって…。

(5回終了時点、荒+57.6p 古川+30.3p 瀬戸熊▲4.1p 滝沢▲82.0p)

最終戦 東1局。
古川は西家、トータルトップの荒は規定により北家スタート。
古川の手牌進行を見ていただきたい。

ちなみに親・滝沢は第一打 の後は ツモ切り、南家瀬戸熊は 手出し、荒は 手出しの捨て牌。
重要な、本当に一局が重要なこの局面でこの に声が出る人は本当に凄いと思う。
私は荒の に触発されたのかと思って尋ねてみると、そうではないのだという。
「この を仕掛けた方が手役の可能性が広がるし、いろいろ得と感じたから」という意味の答えだった。
実はこの局はライバルの荒がピンフのみの1,000点を瀬戸熊からアガるのだが、この ポンで本来古川に入るはずだった牌は

の10枚。

配牌  の古川にとってはチートイドラ2のテンパイが入ればめっけもの、といった所。普通はまだ局面が長引くところだろう。

一方配牌  であった荒からすり抜けていった牌は…第一ツモ の後に入ったチー以降は



最高形456のピンフ三色をテンパイする可能性も十分あっただけに、この仕掛けが見た目のインパクトとは全く異なる効果をもたらしていたのであるが、今こうして牌譜を検証しないとわからない古川の恐ろしさが「タイトル七冠」の所以なのだと改めて感じられた。

続いて今度はメンタンピンリーチを放った古川に、チートイドラ2テンパイから押した滝沢が放銃。
東3局は親番の古川がまたもやノーメンツから3巡目の (初牌)を荒から仕掛けるも、荒も軽くさばいてタンヤオのみの300/500をツモる。
続いて今度は古川が瀬戸熊から2,000点アガリ…と交互に和了合戦。

実はこの半荘、全17局もあるためザックリ記すと…                                                
南1局…流局  南1局1本場…流局  南1局2本場…瀬戸熊5.200ツモ…と続いて行き、南3局の古川親番を迎えた時点では
滝沢 21.600 瀬戸熊 34,500 古川30.700 荒33,200となる。

それが親番で迎えた3度のテンパイ連荘を経て南3局3本場で待望の1.000オールをツモった時、古川は3.4p差してついにトータル首位に立った。
さらに次局、またもや流局したものの荒がリーチ( のシャンポン)をかけていた為、さらに点差が広がった。
5本場に瀬戸熊がツモッたものの、依然わずかに古川が上という状況。
ラス親ながら現在の状況では例え一度交わしても微差ならノーテン終了しづらい。もし古川がテンパイしていたら…。

そうして迎えた最終戦南4局。

7巡目に荒は
  ドラ のリーチを決行。アガれば次はノーテンでOK。一方、このリーチを受けての古川は難しい。

その時点での古川手牌は…

  チー

ツモ  打、続いての は現物、だが2巡後の は初牌。小考の後、古川はひょいとツモ切った。
その後も と当たっても不思議ではない牌を打ち、テンパイを目指す。流局間際にテンパイ、本当にしぶとく、またねちっこい。これが古川の強さなのかと感心する。
荒もそうだがこのハート、この粘り、見習わなければならない点はまだまだ多いなァ。

続いての1本場も流局。またもや二人テンパイ。
さらに2本場。
この局が古川優勝の命綱の境目だった。



4巡前からツモ切りを繰り返す荒。テンパイなのか?それともイーシャンテン?
自分がノーテンのままではもし荒がテンパイなら…。

やや熟考を経て、古川が選択したのは打
荒が発したチーという一声で自分が荒にテンパイをもたらしたのがわかったようで、その瞬間の古川はフーロされた3牌をじっと見つめたまま、しばらく視線を外すことはなかった。
次巡の 、そして最終ツモでテンパった際の打 はもの凄い牌音を伴って河に放たれた。
またもや二人テンパイ。最終戦が始まって1時間30分経過していた。

南4局3本場、ドラ  

またもや二人テンパイ。
荒     
古川    チー

と、そこで荒が一言。「ノーテン」

…!
その時点での点数状況は
瀬戸熊 30,900  (供託1,0)
滝沢  9,500
荒   31.100
古川  47,500

瀬戸熊と滝沢のノーテンを読めれば、荒はノーテンでも30,000以上を確保できてトータル首位に返り咲いて終局できるのだ。
「マージャンプロなら当たり前」と思われる読者の方も多いとは思われるが、このオーラス開始時もほとんど時間は取らず終始淡々としていた荒の状況把握の的確さに改めて感服した。

こうしてまさに激闘というべき長い時を経て、荒正義がグランプリ2006覇者に輝いた。

 

それなのに…勝ってもにこりともせず、ちょっと近所にトウフでも買いに来た、とでもいった表情の荒。
考えて見ると今日の対局、他の三人の手筋は脳裏に鮮明に焼き付いているのに、荒の手筋だけがぼんやりとしか出てこない。
「名人に妙手なし」という格言がある如く、荒は自然にそして飄々と半荘6回を闘い、優勝した。 
外から眺めると、案外こんな印象なのかもしれない。 10年前感じたあの逃げ出したくなるような威圧感、ひょっとしたら同卓しないと体感できない類のものなのかもなァ…などと思いながらふらりと帰路につく。



帰り道、ふと思いついて瀬戸熊にメールを打つ。
「セトは、どうしてマージャンで生きていこうと思ったの?」

送信をおしかけて、やっぱり消した。
俺たちはマージャン打ちなのだから、言葉じゃなくて打牌で生き様を感じ取らなきゃ、ね!






前列 優勝 荒正義
後列 4位:滝沢和典 2位:古川 孝次 3位:瀬戸熊 直樹







(文責・今里邦彦 文中敬称略)

 

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