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第28期 十段戦 

決勝観戦記 〜最終日〜

(観戦記:前原 雄大)


十段戦最終日、池袋の会場に向かう。
もう秋も深まりつつあるというのに、この日はその気配を感じさせず、
照りつけるような日差しは、どこかまだ夏の匂いを残していた。

池袋から会場への道中、祭りの真っ最中なのだろうか、幼い小中学生のような、未だ何も知らない子供たちが、
額に大粒な汗を浮かべながら、神輿を担ぎはしゃいでいた。

あまりの人混みと人いきれの中で、彼らのあまりにもあどけなくはしゃぐ声や、その表情が少しうらやましく思えた私は、
脇にある公園のベンチにしばらく座り、彼らを見つめながらこれから戦う男たちのことと、勝負とは何かという事を考えていた。


十段戦の準決勝は、A卓:森山、荒、石渡、私の組み合わせで、結果は1回戦東1局1本場で、私が考え方を誤ったため当然のごとく敗れた。

・ 参照 中級講座最終回 「それより僕が伝えたいことは」

当初、この原稿を書き終えたときのタイトルは(戦うという事は―――)だった。
それを、ホームページにアップする数時間前に編集長に電話し、かなり強引なかたちでタイトルを差し替えて、最後の10行ほどを加筆させて頂いた。

それは1つに、十段戦の決勝を戦う男たちへ向けてのメッセージでもあった。
私は小賢しい考え方で麻雀に接したから敗れた。
そういう戦いはしてほしくない、という思いをこめたつもりである。


【勝負とは】

勝負とは、その結果のほとんどが、対局の前に8割方はついているものだと思っている。
例えば剣道であれば、試合会場に入る双方の剣士の所作、動作、立ち振る舞いに、
その日までに積み上げて来た修練の在り方が、ほとんどといってよいくらい表れる。
また、勝負の結末はその道に通ずる者から観れば見えて来るものである。
そして、その勝負が真剣勝負であればあるほど、その結末は鮮明に映し出され見えてくる。

そのことは麻雀も同じで、今回の優勝予想の記を見ればよく解る事である。
誰のコメントを見ても的外れなものはない。

今回の十段戦は、ネット配信が急遽決定し、1ヶ月ほど日程が延期されたことを各プロに伝えられた。
その折に、三戸、堀内にコメントを求めた。
ちなみに、三戸と喋るのはおそらく初めてであり、堀内とは2回目であり、数年ぶりの事だったと思う。

「戦略を改めて考え直してみます。」
「シミュレーションとかゲームプランということなのかな?」
「いや純粋に戦略です。」
そう答えたのは三戸である。

「自分の信じた戦略に沿って打つだけです。」
そう答えたのが堀内である。
私は彼らのコメントに違和感を覚えた。

戦略を否定している訳ではない。対人間の間で勝ち負けを争うものは、全て相手のフォームを崩す事が1つの勝負ポイントとなる。
例えば格闘技もそうである。相撲であれば、幕内に上がるほどの技量の持ち主であれば、みなそれぞれのフォームを持っている。
自分のフォームに相手を引き込めば勝負は七分所勝てる。

横綱が強いのは、相手の思惑や揺さぶりに負けないから強いのである。
格下力士は、横綱と対戦する時にどうすれば横綱のフォームを崩せるのかを、ビデオで研究したり、親方から助言される。
そして、針の穴ほどの弱点を見つけ、そこを突破しようとする。
それでも容易には勝てない。だから横綱なのである。

瀬戸熊は横綱なのである。
戦略を中心に考えては勝つことが難しく私には思えた。
戦略は戦略に過ぎないし、戦略は必要な事柄ではあるが、それで勝負は決まらないように思える。
思惑は思惑によって敗れ去るのが自然の理である。

求めるのはまずは、自分の在り方なのである。大切なのはいかに戦うという事だと思う。
いかにとは、創造性であり、構想力であり、戦うとは、意志であり、気迫であり、そして、局面に対する素直さであると思う。

「荒さんと前原さんに勝って決勝に残った以上、自分らしく真っ直ぐに麻雀に立ち向かいます。」
石渡は決勝直前に私にそう言ってくれた。嬉しい言葉だった。
嬉しい分だけ、2日目までの石渡の戦い方に私は不満が残った。

初日、2日目、東1局の立ち上がりは石渡のリーチから入っている局が多く、幾度か満貫の引きアガリから始まっている。
そのことはツキの風が吹いている証である。
そのツキを活かすのが技術だと私は考えているし、石渡もそう考えているはずである。
だからこそ、真っ直ぐに打ち抜く決心を私に語ってくれたのだろう。
それなのに―――。

プロ連盟の道場の黒板には、その月の順位率が記されている。
決勝前、ふとその黒板を見ると参考記録として、森山茂和18戦平均順位率1.78と記された数字が目に飛び込んできた。
おそらくは道場長である藤原隆弘さんの心遣いなのだろう。
それだけ、森山も充実して十段戦を迎えたということだろう。

2日目まで、ツキの風が一番来なかったのが森山だと思う。アゲンストの風が吹いていた。
ただ私は、3日間アゲンストの風が吹き続けた鳳凰戦、十段戦は見たこともないし、経験したこともない。
しかし、3日目を迎えた時点での瀬戸熊とのポイント差を考えれば、優勝は20%程度だろうか。
20%しかないとみるか、20%もあるかと考えるかは森山次第である。

2日目の瀬戸熊は追い風が吹いていたのは事実である。ただ、突風に見舞われる様な局は数局あった。
5回戦の、石渡のツモリ四暗刻に飛び込む局などは分かりやすい例である。
それでも瀬戸熊は心が折れなかった、耐えきったのである。

昨年、瀬戸熊と私は十段戦決勝で戦った。
私はディフェンディング側だったので、瀬戸熊の応援を兼ねて準決勝を観に行った。
オーラスを迎え瀬戸熊は3位で、条件は満貫直撃か跳満ツモ条件だった。
そして瀬戸熊が取った配牌が、

 ドラ

「ふざけんなよっ」
と、心の中で喝采の声を上げたくなるような配牌で、瀬戸熊はわずか5巡目に条件をクリア―した。
「鳳凰である貴方が十段決勝に残った以上、本気で十段を獲りに来てほしい。私も本気で死守しに行くから。」
「もちろん、そのつもりです。」

強い男と戦いたい!これは麻雀打ちの性である。
ところが、固い約束をしたにも関わらず、瀬戸熊は私の抜け番である8回戦に大敗を喫した。

・ 参照 第27期十段戦 二日目観戦記 冒頭部分

私は苦笑いしたと記してある。
私は苦笑いした記憶はないが、観戦記者の滝沢和典にはそう映ったのだろう。
あの瀬戸熊の数字を観た私の感情は、滝沢が記した通りである。“がっかり”が正解である。

「勝ち負けは時の運だけど、ああいう土俵を割るような麻雀を打ってはいけない。」
「僕は、5人打ちがよく解らないんです。」
十段戦が終わり、数日後、私は自分を棚に上げ瀬戸熊を叱った。
私は、8回戦の瀬戸熊のマイナスポイントを叱ったのではなく、その後、瀬戸熊の闘気が薄れていったことを叱ったのだが。

公園のベンチにほんの5分ほど座り考えていたつもりだったが、時計を見ると1時間が過ぎていた。
真夏を思わせる暑い日だったが、見上げた空は雲一つなく何処までも突き抜けるような蒼い空だった。
やはり、空が果てしなく高く感じるのは、季節が間違いなく秋に移り変わったという事なんだろう。


【人は経験を積む為に生まれて来た】

人は経験を積む為に生まれて来た。
そう言ったのはアインシュタインだが、その言葉通り、瀬戸熊が積み重ねた経験は、暴君と呼ばれたような真夏の暑さではなく、
夏を感じさせる秋に成熟し変容しているように思えた。

点けかけた煙草を灰皿に捨て、私はもう一度祭りの最中の幼い子供たちの笑い声や、賑わう声に目を向けてから足早に会場に歩を向けた。
良い戦いが繰り広げられるよう願いながら。―――――


2日目終了時 
瀬戸熊直樹+107.4P  堀内正人▲10.7P  石渡正志▲20.2P  三戸亮祐▲34.3P  森山茂和▲42.2P
最終日はこの並びで始まった。

対局開始前に2日目を終えて、と最終日に向けて、各自からコメントをもらった。

瀬戸熊直樹「正直、出来すぎだと思いました。内容的にはまあまあだったので、得点よりそちらの方は『ほっ』としています。
今朝まで本当にプレッシャーがありました・・・・。取りこぼしは出来ないという。
しかし、僕はチャレンジャーという事を思い出しましたので、しっかり最後まで自分らしくあろうと思います。」

堀内正人 「トータルトップを走っている瀬戸熊プロにリードを許してしまい、ポイント的には厳しくなったと感じましたが、
気持ちはすぐに切り替える事が出来ました。
2日目が終わってから、翌日の対局まではいかにして逆転する事が出来るかを考えていました。
瀬戸熊プロに楽をさせないこと、並びを作る事を意識して最終日の対局に臨みます。」

三戸亮祐 「2日目は6〜8回戦まで対局しましたが、3戦とも一時は3万点を越えていながらもトップを取ることが出来ず、
8回戦に至っては、1人沈みとなってしまう苦しい1日でした。
差が開いてしまいましたが、残り回数が少なくなってそれぞれの親と瀬戸熊プロのとの戦いの図式が明確になってくるはずです。
わずかかかもしれませんが、直接対決がある以上、チャンスはあると思います。」

石渡正志 「個人的には初日よりプラスでしたが、トップとは昨日よりも差がついてしまい、1人浮き状態でもありかなり難しい戦況になってきました。
一縷の臨みと言えば、直接対決で4回戦ということだけで、とにかく大きなトップを取り、トップ者をラスにしないといけない。
最初の半荘が、かなり重要なウェイトを占める事は間違いない。今日は行き切ろうと思っています。」

森山茂和 「数字的に差はあるが、瀬戸熊が優勝する可能性が85%、私にも15%程残っていると思う。私はその15%に全てをかけるつもりです。」







【普通に打つということ】

9回戦(起家から、瀬戸熊・堀内・石渡・森山)抜け番:森山

9回戦も14巡目の石渡のリーチから始まった。

 リーチ ドラ

これに対し瀬戸熊は少考の末、今シリーズ初めて自然なかたちで形式テンパイを取った。
―――危ういな。私は違和感を覚えた。

もともと瀬戸熊はここぞという時には、キラーパスのような形式テンパイを取ることはあったが、
鳳凰2連覇以降、ここ数ヶ月は勉強会も含め、瀬戸熊の形式テンパイを見たことが無かったからだ。
もちろん私は形式テンパイを否定しているものでもないし、ノーテン罰符がある以上、有効且つ、必要な手段であることも認識している。
只一方で、この半年間に瀬戸熊が積み上げて来たフォームとは違うように思えた。
この先の戦いに不安を覚えたことは確かである。

東3局2本場、10巡目、瀬戸熊が今半荘を決めるべきリーチを打ってきた。

 リーチ ドラ

このリーチも、5,200点のツモアガリをベースと考えていた去年までの瀬戸熊らしいと言えばそうなのだが、
今の瀬戸熊には、少し似つかわしくないように映った。

1つには、456・567の三色の変化を見込めること、もう一点は、大局的見地から観てここでリーチを打つことが、
圧倒的なポイント差から見れば、打つべきリーチではないようにも思えたからだ。
ただ、瀬戸熊がコメントしているように、チャレンジャー精神が打たせたリーチなのだろう。
結果は、次巡すぐに出た。森山の追い掛けリーチである。

 リーチ ドラ

牌譜をご覧になれば分かるように、瀬戸熊がラス牌であり自分自身が雀頭のを掴まされたのである。
「森山さんの追い掛けリーチが入った時に、ああやっちゃったなとは思いました。」瀬戸熊はそう語っていた。
このは、掴んだロン牌なのか、森山に掴まされたロン牌なのかそれは不明ではあるが、放銃は紛れもない事実である。

今局に限らず森山は手役を追う。
それは、誤解されがちなのだが、森山が手役を目指すのは“勢い”をつけるための手段と語っている。
勢いのつけ方は人それぞれ異なるが、普通はホップ・ステップ・ジャンプとアガリを重ね勢いを加速させていくものだが、森山の勢いのつけ方は人とは異なる。

だからこそ瀬戸熊をして、
「森山さんにだけは大物手を成就させないように心がけていたし、3日目のプレッシャーの中身は森山さんをブレイクさせないことだと考えていたのに、、、。」
瀬戸熊のその部分の言葉はよく解る。
瀬戸熊の宣言牌であるを、1巡でも持った意味は、それは瀬戸熊が森山を意識し、森山の現物を残したからに他ならない。

ポイント差を考えれば、普通に打ちさえしていれば瀬戸熊の優勝はまず固い。
ただ、普通に打つとは何なのかと考えれば難しい問題である。
三色の手変わりを待つのが普通なのか、以前の瀬戸熊のベースである5,200点のツモアガリを考えたリーチを打つのが普通なのか。
大量リードを基点に考え、ヤミテンで2,000点の出アガリで良しとすべきなのか。
普通という言葉そのものが、大多数による偏見だと考える私の結論は、結局は打ち手本人自身が出すべき答えなのである。

この放銃の後、瀬戸熊の息遣いが傍で見ていても荒くなる。
これは、瀬戸熊独特の呼吸方法で、最初私は空手などの呼吸法かと思っていたがそうではなく、
自分自身を落ち着かせ、自分の立場を見つめなおすための腹式呼吸であると瀬戸熊が語ってくれた。

自分の放銃牌であるが、ラス牌であることを知っているのは瀬戸熊だけである。
そして、そのの放銃の得失点そのものが、態勢に影響ないことも分かっている。
瀬戸熊が考えたのは、今後の展開と、自分の勢いが昨日までと違う事、森山を含めた他対局者との間合いである。


【瀬戸熊のプレッシャー】

南2局2本場、瀬戸熊は親番という事もあり、11巡目にリーチを打っている。

 リーチ ドラ

このリーチも微妙である。
普段の瀬戸熊ならば、ヤミテンに構えるかマンズを解すように思う。
そう打っていくと、

  ツモ

この牌姿でのアガリがあった。
「ラス目であるときこそラスを受け止める力」と、
最近の瀬戸熊が語っているところから考えれば、プレッシャーが打たせたリーチなのかもしれない。

南2局2本場、9巡目に森山がリーチを打っている。
瀬戸熊は珍しく眉間に皺を寄せる。
「森山さんだけは注意する。」
そう言っていた瀬戸熊の手牌には、森山のリーチに対する受け牌がないのである。

瀬戸熊は意を決して、打
結果は、堀内に救われる形で終局を見たが、瀬戸熊は「森山さんの手が高いことは感覚として分かっていました。」
分かっていても手を組んでしまう。

瀬戸熊の手詰まりを起こすのは、彼の戦う意志なのか、プレッシャーが成せる処なのか微妙な部分ではある。
私が堀内の立場なら、この中は仕掛けない。瀬戸熊が苦しんでいるのが明らかな以上、さらに苦しめる為だからである。

ただ、それは私の戦い方であって、堀内は全く別の角度から戦いの方法論システムを構築している訳だから、戦い方は人それぞれの価値観にある。
人それぞれ全く別の人生観があるように、麻雀も人それぞれであるから。

小刻みにアガリを取りに行く堀内にチャンスが訪れたのが、
南3局1本場、6巡目に堀内は1シャンテンに構える。

牌譜再生

 ドラ

この手牌に10巡目、ツモを暗カンしないで、ツモ切っているのは好手である。
対極的に、瀬戸熊の10巡目のリーチは、大局的に自分の状態をみれば疑問手である。
冷静な瀬戸熊であれば、今局、自分にドラをツモれる状況にあるか形勢判断は出来る筈である。

ヤミテンの単騎に構えるのは、今の状況における瀬戸熊の本手だろう。
森山、堀内からリーチが入れば、の暗刻落としであろう。
瀬戸熊が恐れるべきは点棒ではなく手が死んでしまう事で、それは本人も一番分かっているはず。

堀内も、ノータイムでリーチに無スジを切り飛ばして行く。
ラス目のトータルトップ者がリーチを打ち、ノーガードになった以上、親番ということもあり攻め込まねばならないのは、
私と堀内の思考方法が違えど、戦いの基本であることは同じである。
そして、14巡目堀内のリーチ。

 リーチ ドラ

結果は、瀬戸熊が堀内への12,000点は12,300点の放銃。

続く南3局2本場、堀内の配牌。

 ドラ

この手が巡目にここまで育ち、テンパイだが待ち取らずの打

 ツモ  ドラ

待ち取らずは好手だと思う。
堀内は、いわゆるデジタルと言われる打ち手である。
11巡目にツモでリーチを打っている。これは微妙である。

ひとつには、森山のや瀬戸熊のを、ヤミテンなら捕らえることができていたかもしれない。いわゆるアガリ逃しが2度あった訳である。
その上で、3度目のアガリはリーチを打って、引きアガれる程の状態にあるのだろうか。
そして、ここで4,000オールも、6,000オールのアガリも同じで、大切なのはアガリ切ることが最大のテーマであるはず。
堀内から見えているだけで-は5枚である。やはりヤミテンに構えるのが本手であろう。

結果は流局だが、ヤミテンに構えた場合、石渡からの出アガリか、森山がを打った場合、堀内のツモアガリはあったようである。
堀内の気概は買うが、結果としては惜しい逸機だったように思われる。

南3局3本場、石渡が14巡目にリーチ。

 リーチ ドラ

宣言牌のを、森山が仕掛け7,700点は8,600点プラスリーチ棒1,000点の収入。

 チー ロン ドラ

オーラス、堀内、森山のリーチの戦いは、堀内に軍配が上がりトップを奪う。

 リーチ ツモ ドラ

瀬戸熊は、今シリーズ初のラスを引かされる。

9回戦成績  
堀内正人+35.9P  森山茂和+17.6P  石渡正志▲19.6P  瀬戸熊直樹▲33.9P

9回戦終了時 
瀬戸熊直樹+73.5P  堀内正人+25.2P  森山茂和▲24.6P  三戸亮祐▲34.3P  石渡正志▲39.8P



10回戦(起家から石渡・堀内・三戸・瀬戸熊) 抜け番森山

【カットライン】

10回戦は森山が抜け番の為、三戸、石渡にとって十段を勝ち取るためには、残りの最終2回戦を戦うためのカットラインとの戦いでもある。
現状、森山が3位に位置するため、三戸、石渡は、互いよりは上に行かねばならない戦いである。
三戸と石渡の差は5,5P差。実質、着順勝負である。

カットラインの戦いが存在する以上、瀬戸熊にとってはかなり戦いやすくなる。
下を競り合う戦いが繰り広げられる以上、三戸、石渡がやり合い、戦いの構図が分かりやすくなる。
まず、2人にとって戦いの目的が瀬戸熊を包囲することより、目の前の相手との戦いになるからである。

【瀬戸熊の忘却力】

もう1つ瀬戸熊の能力を高く評価している部分がある。
自己管理能力と忘却力である。

「タイガー・ウッズは、ミスショットをした時、5秒間声をあげ自分に怒り、6秒後には次のショットに気持ちを切り替えられるのが素晴らしい。」
そう言ったのは、一緒にラウンドしたゴルフ界の帝王・ジャック・ニクラスである。
瀬戸熊もタイガー・ウッズに似た部分を持っている。
正確に記せば、どの世界でも強者と呼ばれる男たちの精神の在り方はそうなのかもしれない。

今回の十段は全面禁煙であるが、通常の決勝戦であれば、瀬戸熊は対局が終わり僅かな休憩の合間、脇目もふらずに喫煙所に向かい、
煙草に火をつけ一口、二口煙草を大きく吸い込み目を閉じている。
煙草の灰の部分が長くなり、落ちそうになっても目を開くことはない。
自分の中に何かを探している時間なのだろう。

ギャラリーも、瀬戸熊のそういう時間があることを知っているせいか誰も近付かない。
若しくは、近寄らせない雰囲気を瀬戸熊が醸し出しているのかもしれない。
そして、何かを見つけたように目を開き、最後に一口煙草を吸いこみそして卓に向かう。

大勝した半荘も、今回の9回戦のように大敗した半荘も、瀬戸熊はいつもそうしてきた。
私は、瀬戸熊が2連続で大敗するのをここ数年見た記憶がない。
それは、ひとつに休憩時に自分自身を見つめ、そして次の半荘に向かう、戦う自己管理と忘却力にあると思っている。

10回戦の開局は、親番の石渡の仕掛けから始まった。
まずは、7巡目、

 ツモ ドラ

ここから打。この打は悪手であると思う。
「作戦とかは考えず、思い切り手を広げ真っ直ぐに行き(打ち)切ろうと思っています。」
コメント通りに真っ直ぐに打と打ち抜けば12巡目、

 ドラ

この牌姿に自然な手順で辿り着き、次巡のツモアガリで決着を見る。
リーチを打つかは不明であるが、打てば3,900オールである。ヤミテンに構えたならば2,000オールである、
実戦では11巡目、

  チー 

この手牌になり、そこに上家からのを動かずテンパイを入れないのは緩手である。
動いた場合は、石渡のアガリはないが、流局の可能性は濃く親番の維持は出来たようだ。
結果はともかく、腹の括り方が足りなかったように思える。

対照的に、きちんと為すべき方法論を取ったのが、次局アガって東2局の親番を迎えた堀内。

 リーチ ツモ ドラ

堀内は、瞬間も迷うことなくリーチを打てたのは、テンパイが入る前に決めていたからである。
昨年の十段戦の観戦記者である滝沢和典が、堀内の麻雀を”作業”と表現していたが、
どういう方法論を取るにしても徹底させてこそ、初めてその方法論は生きる。方法論を活かすのは打ち手の技術である。

今局、堀内はラス牌のを軽々とツモりあげている。
私は前局のアガリから、今局はどういう形であれ堀内のアガリはあると見たし、ツモアガった事実も堀内の力と見る。
しかし、堀内はそういう考え方をしないように思う。それはそれで良いと思っている。

昨年“作業”をやり続け、栄冠を手にした以上、自分の考え方を正しく思えるのは当然であり、
その方法論をさらに先鋭化して十段戦に臨んでくるのは当たり前の事である。

【成功に始まりあれば、失敗にも始まりはある】

南1局、9回戦の失点から始まり今局に至るまで、持ち点が示すように、瀬戸熊は彼の言葉でいうところの「我慢タイム」を過ごしていた。
「我慢タイム」とは、エネルギーの充電タイムと私は受け止めている。
充電期間が終わったかの如く、瀬戸熊の今局はツモの伸びがよい。
本人もその事は感じていただろう。6巡目に1シャンテン。

  ドラ

同巡、堀内が仕掛ける。

 チー

そして、瀬戸熊にツモと入り、迷わずリーチを打ったのは堀内をオロす為だろう。
若しくは、下降線を辿る石渡の親番ならば、リーチを打つのが至当と考えたのかもしれない。

待ち取りは、場況を見るならシャンポンのヤミテンか、横へのツモの伸びを感じるならばカン待ち。
瀬戸熊の注文通り、堀内は真っ直ぐにオリに向かう。
瀬戸熊の一発目のツモが、受け損ないの。これは致し方ないように思う。

決着は、石渡の放銃である。
三戸とのカットライン争い、点差だけを考えれば親番であるここが勝負処と考えたのかもしれない。
ただ、もう少し勝負処を先送りにする手もあったように思う。

瀬戸熊にとっては大きな得点であるが、一方で、石渡にとっては致命的な失点でもある。
石渡にとっての十段戦は今局で終わった。

十段戦が終わり、数日後に対局者全員に十段戦の感想をメールで求めた。
観戦記者の私に送られてきた石渡のメールは予想外に重い内容だった。
「自分の不甲斐なさを痛感した。そして、これから麻雀とどのように関わっていこうか・・・・と初めて考えさせられました。」

私は時折思う。
優勝者の喜びと敗退者の哀しみの総和はゼロにはならないだろうと。
敗れ去った者たちの哀しみの方が圧倒的に多いだろう。
その事は、麻雀プロではなくてもどの世界でも同じではないかと思う。
瀬戸熊にしても私にしても、過去に歴史的大敗を経験している。

私は自分に負けて、次にタイトルを取るまで毎年の如く決勝に残り、そして、敗れ続けた。
そして思ったのが、成功に始まりあれば、失敗にも始まりはあるという結論だった。

強い人間なんて存在しないと思う。
負けて、負け続けてあきらめる人間と、それでもあきらめず強くあろうとする人間がいるだけだと思う。
石渡にはどうか強さを目指して欲しいと願うのは私だけだろうか。
いずれにしても、全ての事を決めるのは己自身に他ならない。

【三戸の構想力と意思】

南2局、三戸の4巡目の手牌である。

 ツモ ドラ

私はこの牌譜を初見の折、打の意味合いが良く解らなかった。
私なら打とする。正確に記すならば、の手残りの意味が解らなかったのである。

三戸君に電話してみた。
「678、789の三色を視野に入れました。」
「目的は十段を取る事であり、そうである以上、瀬戸熊さんとの差を少しでも詰めることが課題です。
ならば、この局を安手で終わらせては瀬戸熊さんを楽にするだけだと思っていました。」

確かに、今半荘の三戸は気迫がこちらに伝わるほど素晴らしく、きちんと攻め、アガリ、放銃する局が連続している。
―――戦っているのである。
あたかも安全で確実に身になる道なぞ存在しないとでもいいたげに。

最終形をご覧になれば分かる通り、配牌からは想像も出来ない形となっている。
麻雀プロは結果も大切だが、内容も大事である。
この譜には、三戸の表現者の構想力と意思が詰まっている。良譜である。
十段戦の3日間で一番成長していたのは三戸君かもしれない。

結果は、どう打っても石渡のアガリであるが、7巡目、

 ドラ

ここから石渡は打としているが、打と構え、次巡ツモでリーチが手順だろう。

 ドラ

もしくは、実戦の最終形ならば単騎のリーチもあったように思う。

10回戦成績  
瀬戸熊直樹+14.1P  堀内正人+14.1P  三戸亮祐+7.2P  石渡正志▲35.4P

10回戦終了時 
瀬戸熊直樹+87.6P  堀内正人+39.3P  森山茂和▲24.6P  三戸亮祐▲27.1P   第5位(石渡正志▲75.2P)




11回戦(起家から森山・三戸・堀内・瀬戸熊)

残り2戦。瀬戸熊と堀内の点差は48.3P。これは現実的なポイント差である。
瀬戸熊と3位の森山の差は112.3P。この点差はかなり厳しい。
1つには、瀬戸熊と堀内の両者を沈めながらのトップが絶対条件だからである。

瀬戸熊側から見れば、堀内だけ観ていけばよい訳だから、瀬戸熊の今の状態を考えればそれほど難しくないように思えた。
「堀内君も意識するけど、何といっても森山さんへの直撃だけは避けたいと思っていました。」
外側の考えと対局者の思考は違うものなのである。

東1局、開局は9巡目、堀内のリーチから入った。

 リーチ ドラ

これを受けて2巡後の森山のリーチが妙手。

  

ここから打の追い掛けリーチである。
堀内のリーチを-、もしくは-と読み、攻めと受けの好手兼備の最善手と呼んでよいリーチである。
瀬戸熊も堀内のリーチ後、すぐロン牌であるを掴むも丁寧に受け切った。
森山のリーチ時には、が1枚が2枚残されていたが、1枚ずつが王牌に阻まれ流局。

続く1本場を、堀内がリーチで森山の親を落とす。

 リーチ ロン ドラ

ただ、もう少し大きく構えればの雀頭が振り変わっており、それが惜しまれる。
堀内は常々“戦略”という言葉を用いるが、そこを考えれば、ここに至っては小さなアガリで場を進めることは、
決して得にはならないように思えるのだが―――。

東2局、森山の先制リーチ。

 リーチ ドラ

親番の三戸が、無筋を切り飛ばし追い掛けリーチを打ったのは、森山に遅れること2巡。

 ドラ

は1枚、-は2枚、王牌に阻まれたのも瀬戸熊に展開が味方しているように思われた。
瀬戸熊の恐れるべきパターンの1つに、大物手のツモリ合いでラス目を押しつけられることにある。

東2局1本場、11巡目に今半荘森山が、3本目のリーチを打つ。

 リーチ ロン ドラ

放銃した三戸も、-は薄い待ちである事は分かっているが、残り荘数を計算すれば、アガリ牌以外は全てツモ切るべき局面となっている。
両者のこういう攻めのかたちが、瀬戸熊にプレッシャーをかける唯一の方法といってもよい。

南1局、親番の森山が今シリーズ11回目の三色手のリーチを打つも流局。

 リーチ ドラ

【決まり手】

牌譜再生

南1局2本場、先制リーチはラス目と微差の3着目にある瀬戸熊。

 リーチ ドラ

次巡、追い掛けリーチは2着目の堀内。

 リーチ 

-残り4枚。-残り2枚。
残り枚数などで勝ち負けは決まらないと思っているが、さすがに今局までの過程を考えれば堀内に分があるように思えた。
そこに「割り込み」を入れたのが三戸のポン。三戸が動いた瞬間、瀬戸熊の手元にが舞い踊った。
私はメモを走らせた。「決まり手。勝負あり!」

その後南3局、瀬戸熊が珍しく軽い仕掛けを入れてしまう。
堀内が親で、11巡目にリーチを打ちラス牌でありドラであるを引きアガる。

 暗カン リーチ ツモ  ドラ

瀬戸熊が仕掛けた時点での堀内の手牌。

この手牌がここまで育ってしまうのだから麻雀は正直だと思う。
この堀内のテンパイは自然に入ったテンパイではなく、瀬戸熊が仕掛けて入れさせたテンパイである。
そういうことは瀬戸熊も良く解っている。解っているからこそ、瀬戸熊は責任を負うがごとく逃げずに攻め返している。
一度逃げれば逃げ癖がつくことも瀬戸熊は知っている。だから逃げない。
だからこそ、鳳凰位も2連覇出来たと私は思っている。

麻雀は包容力のあるゲームである。そして、正直なゲームでもある。
土壇場で疑問手とも言えない微妙な手を打てば、厳しく咎めてくれる。
もちろん、瀬戸熊の側にすればこの堀内の親さえ落とせば、という気持ちはよく解るのだが―――
この6,000オールを引きアガらせたことで、また瀬戸熊は強くなるのだろうと観戦中私は考えていた。

牌譜再生

南3局1本場、堀内はここから手牌を折り、打とし仕掛けに備える。

 ドラ

―――これは危ういな。観ていてそう思った。
せっかく18,000の収入が入った以上、自然に手を組めば良いのに。
次巡、を仕掛ける。尚且つ、堀内は7巡目にテンパイ待ち取らず。

 ポン 

ここでテンパイを組めば、同巡の瀬戸熊のでアガっていた可能性がある。
もしくは、を仕掛けなければ、

 リーチ ツモ

この形で6巡目にテンパイが入り、10巡目には3,900オールを自然な形で引きアガっていた。
上昇気流にある時、軽々しく仕掛けないのはセオリーでもあると考える私にとっては、全くもったいない1局ではある。

誰かが間違えれば、正着打を打つ者に幸がやってくるのは自然の理である。
11巡目に森山がリーチを打つ。

 リーチ ツモ 

森山の鮮やかなまでの倍満の引きアガリである。
私は、この1局が堀内の十段戦連覇を逸した1局であると睨んでいる。

そして南4局、瀬戸熊が2件リーチをかいくぐりアガリ切る。

森山
 リーチ ドラ

三戸
 リーチ 

瀬戸熊
 ポン  ロン 

余りにも大きすぎる12,000点のアガりだった。
これは麻雀打ちなら、誰もが欲しがる勝負力、瀬戸熊の持つ勝負力に他ならない。

11回戦成績  
森山茂和+23.5P  堀内正人+15.8P  瀬戸熊直樹+9.9P  三戸亮祐▲49.2P

11回戦終了時 
瀬戸熊直樹+97.5P  堀内正人+55.1P  森山茂和▲1.1P  三戸亮祐▲76.3P  第5位(石渡正志▲75.2P)



12回戦(起家から三戸・森山・堀内・瀬戸熊)

いよいよ最終戦である。
瀬戸熊+97.5P、堀内+55.1P、森山▲1.1P、三戸▲76.3P。
この並びで、瀬戸熊は堀内と42.4P差である。3位の森山とは98.6Pである。

【平等であるということ】

「私は最終戦であるということを踏まえた上で、普通にトップを取りに行くし、自分が信じる麻雀を打ちます。」
森山は最終戦が始まる前、そう言っている。

点棒の動きが始まったのは東3局。
12巡目、親番の堀内のリーチ。

 リーチ ドラ

同巡、森山にもテンパイが入るもきちんとヤミテンに構える。

 
    
次巡、森山ののツモアガリである。



続く東4局、実質、堀内から森山への放銃で、長かった十段戦も幕を閉じようとしているのを感じた。
瀬戸熊の持ち点34,000点、堀内の持ち点17,400点である。

【三戸の仕舞い方】

どういう戦いであっても、可能性が果てしなく薄くなった打ち手にとって、舞台の幕の降ろし方、仕舞い方は難しいし、人それぞれである。
将棋の様に、相対のゲームであれば投了を宣言した瞬間に対局は終わる。
他人から見てどれだけ勝ち筋が残されていようと、対局者が決める事である。

三戸は7巡目のこの牌姿から、森山から打ちだされたを仕掛けない。

 ドラ

そして、今局最終的にはオリに向かった。
三戸は今局が示すように、全局に渡り今半荘アガリに向かった局が存在しない。
これは、三戸の十段戦での投了のかたちである。

私ならば、このは仕掛ける。親番がある限りは何万点差だろうが、そうするのが私の麻雀の価値観である。
だからといって、三戸の投了を否定するものでもないし、在り方としては場を汚したくないと思う心は美しいとさえ思う。

一方、森山は15巡目にリーチを打っている。

 リーチ ドラ

これはこれで戦い方として美しいと思う。
森山は対局者に、そして麻雀に対して誠実であろうとしている表れだからである。
次局、南2局1本場でも親番の森山はリーチを打っている。

 リーチ ドラ

このリーチも前局同様、4人で麻雀を打っていこうという森山の姿勢である。
結果は、堀内のツモアガリ。

 ポン チー  ツモ 

そして、堀内の親で連荘が始まる。
南3局、流局。

 ポン  ドラ

南3局1本場、

 リーチ ツモ ドラ

南3局2本場、流局。

 ポン チー ドラ

南3局3本場、結果は見た通りだが、このアガリが最善手かと言えば私にはそう思えない。
なにしろ、42.4P差を逆転しなければならないという条件が大前提にあるからである。
6巡目、堀内はテンパイを組み即リーチを打っている。

 リーチ ドラ

私ならば、各対局者の河を見、進行具合を考えをツモ切り待ち取らずとする。
それは、この手を優勝への手牌へと昇華させこの1局に逆転を賭ける。
もしくは、テンパイを組んだとしてもヤミテンに構える。そしてツモでフリテンリーチを打つ。

 リーチ  

もしくは、

 リーチ(フリテン)

この2通りのどちらかを選択したように思う。
ただこれは、私の勝負処の捉え方であって、堀内の方法論を頭から否定するものではない。

南3局4本場、流局。

 暗カン リーチ ドラ

南3局5本場、森山が4巡目にリーチを打ち、堀内から出アガリ。瀬戸熊の優勝が決まった瞬間である。

12回戦成績  
森山茂和+19.8P  堀内正人+7.4P  瀬戸熊直樹▲5.8P  三戸亮祐▲21.4P

12回戦終了時 
瀬戸熊直樹+91.7P  堀内正人+62.5P  森山茂和+18.7P  三戸亮祐▲97.7P  第5位(石渡正志▲75.2P)




勝負の結末の仕舞い方は難しい。
三戸のように全局オリに向かう姿も美しいと思うし、
森山のように開始前に宣言し、トップを目指し4人麻雀の形を崩さない在り方も美しいと思う。

・参照 第26期十段戦 最終日観戦記
第26期十段戦決勝最終戦南3局、親番の落ちた荒正義は4巡目にをポンしている。

 ポン ドラ

今でもはっきりと覚えているが、荒がをポンした時ドラが固まっている事を想定していた。
それでも私はリーチを打ち、荒から出アガリ優勝を掌中にする事が出来た。
荒の視点から見ると、なぜ荒は優勝の可能性がないのに仕掛けたのか。
その答えは、荒は競技者として平等であろうとしたものだと思う。

本文中にも沢崎誠が記しているが、
「前原、板川どちらかが打てば致命的となる。」
この時私が、荒のロン牌であるを掴まなかったのは、私のそれまでの戦い方と僅かなツキを持っていたからに他ならない。
仮に、私がを掴み放銃で終わったとしても、荒さんと私の人間関係に過恨を残す事はない。

今局の森山も同様である。
誰かのためにリーチを打ったのではなく、4人麻雀を成立させたいというだけの事である。

十段戦が終わり数日後、堀内に取材を兼ねて電話を入れた。
「もちろん、森山さんのリーチは予想していましたし、競技者としてそうあるべきだと思います。」
堀内の言葉である。
短いコメントだった。そして短いコメントであっただけ重く、真実の言葉だと私は解している。


私は全対局終了後。1人だけで会場を抜け出した。
あれほど澄み渡っていた空から、大粒の雨が降り続けている夜空を1人仰ぎながら眺めていた。

荒正義さんと滝沢和典君が会場から出て、私に飲まないかと誘ってくれたが、私はここ数日ある事を祈り酒を絶っていたので丁寧に断った。
「うん、それも良いカラ。」
何が良いのか分からなかったが荒さんはそう言ってくれた。

私は誰にも会わず帰ろうかと思っていたが、瀬戸君にお祝いの言葉を言っていない事を思い出し電話を入れた。
「今すぐ行きますので―――。」
瀬戸君の言葉である。

瀬戸君を待っている間に三戸君が会場から出てきて私に、
「お疲れ様でした。」
「あなたこそお疲れ様。」
三戸君は雨の中を、足早にホテルに向かって行った。

瀬戸君や森山さんたちが一緒に会場から出てき、少しだけ祝いの宴にしようかとなった。

数名の小さな宴の筈だったが、いつのまにかホテルに帰った三戸君が座り、瀬戸君の優勝を自分の事のように喜んでいる姿が見えた。
荒さんと滝沢君の笑顔もいつの間にかそこにはあった。
「セトは強くなったな―――。」
そう瀬戸君に話しかける森山さんの姿もあった。

瀬戸君は誰と言う事ではなく、1人1人座っている席に立ち寄り、
「ありがとうございます。精進します。」
深々と頭を下げて、その言葉を繰り返していた光景がそこにはあった。


第5位:石渡正志
「自分の不甲斐なさを痛感した。そして、これから麻雀とどのように関わっていこうか・・・・と初めて考えさせられました。」

第4位:三戸亮祐
「十段戦は、トーナメントというスタイルと、対局者のレベルの高さという点で最も面白く、充実感のあるタイトル戦なのではないかと思います。
今回を含めて、九段戦以上まで残れたのが5回目になります。一番相性のいいタイトルだと感じており、おこがましいとは思っていますが、
自分にとって1番近いタイトルは十段位なのかもしれません。
今回は、力及ばず敗れてしまいましたが、来期こそは獲れるようレベルアップに努めたいと思っています。」

第3位:森山茂和
「優勝出来なかったということは、やはり何かが足りなかったという事だろうね。
その何かを探していくのが、麻雀プロの務めだと思っているし、そこに向かって、私も精進するしかないだろう。」

第2位:堀内正人
「プロ連盟の歴史と伝統が詰まったタイトル戦で『十段』の座は僕にとって何よりも重たいものだと受け止めています。」

十段位:瀬戸熊直樹
「鳳凰位の次に取りたいタイトルでありましたが、今となっては、責務を果たす事で頭がいっぱいです。 
勝ってからが大変なんだなあと、改めて思っています。鳳凰位・十段位の名に恥じぬよう、精進あるのみです。」



どこまで記せたのか自分では分からないが、私の主観で今回の十段戦を記させて頂いた。
私の叔父は、日本経済新聞に40数年間、囲碁の観戦記を記し続ける生涯であった。
「常に新聞社をクビになる覚悟で、自分の主観で記し続けた事が、小さいけれど私の誇りだった。」
それが、私の叔父の口癖だった。

私は今回記すに当たり、叔父の言葉を何度も振り返りながら記した。
辛口になった部分もあったかもしれないが、そこに、他意はない。
そして、幾度の取材にも快く応じて下さった、各対局者の方々には心より御礼申し上げます。


最後に、瀬戸熊鳳凰十段から届いたメールを記す。

「十段位となった今、改めて十段戦の僕の中での存在を考えると、それは『避けては通る事の出来ない試練』だったように思います。
先輩達の背中を追い駆け、自分の麻雀を完成させる為に、何度でも立ち向かわなければならない、試練だと思っていました。
次の目標は、先輩達から受け継いだ本物の麻雀を、高いクオリティーのまま、後輩に伝える事だと思っています。
何年後かに、成長した今の20代、30代の人達と、十段戦、鳳凰戦と争った時に、
最高レベルの麻雀を打って、勝っても負けても未来に繋がる勝負が出来るように、自分を高めたいと思っています。
もちろん、僕自身もまだまだ未熟です。さらに理想の麻雀を得る為に、多くの方から貪欲に学びたいと思っています。
ここまでこられたのは、本当に多くの人のおかげであるという『感謝』の気持を忘れずに、
さらなる高みを目指したいと襟を正す気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。」





 

(観戦記:前原 雄大 文中敬称略)

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