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第28期 十段戦 

決勝観戦記 〜初日〜

(観戦記:前原 雄大)

『それにしても』

全対局終了後、軽い打ち上げの後、瀬戸熊鳳凰、十段と私は2人タクシーに乗り帰路へ向かった。
「それにしても強かったね」
「いや、結果はたまたまですよ。」
「そうかな?」
「仮にあるとしたら、前原さんの背中を見続けて来たことと、森山さんに立体的な麻雀を学んだことだと思います。」
「そういうヨイショはいらないから・・・」
「いや、ホントのことです!」

瀬戸熊直樹の、珍しく語気を荒げた口調と真剣な眼差しに私は少し、たじろいだ。
「荒さんにもだろ?」」
愚かな私は負けてはならぬとばかりに言い返した。
「はい」
少しの間、重い沈黙の時が流れた。

お互いに苦笑いの後、
「それに、僕と前原さんは麻雀の形とか色々似ているように思うんです。」
「いや、それは違う」
{ありがとう、と言えない自分に嫌気がさした}

お互いに何日か振りの少しのアルコールと、心地よい疲れが言わせた言葉だったのかも知れない。
__でも心の中で、これでイイんだと私は思っていた。
おそらく瀬戸君は、相変わらず面倒くさいオッサンと思っていたと思う。

やがて、瀬戸君の家が近付き僕らは別れた。
「とにかく、おめでとう」
「こちらこそ本当にありがとうございました」
初めて瀬戸君に満面の笑みが零れた。

私はそのまま家路に向かった。
バックミラーには、見えなくなるまで深く頭を下げ続ける瀬戸君が映っていた。
その姿を見て、やはり私達は違うなと思ったし、何が肝心なのかこの男は解っていると改めて思いなおした。


__それにしても瀬戸君は強かったな。
何処からあの強さは生まれて来たのだろう。
酔った頭の中で考えた。帰り道、ずっとそのことを考え、家に着いてからも考え続けた。

私がハッキリ瀬戸熊直樹鳳凰、十段を意識したのは、A2リーグ最終節、最終戦オーラスの局面を見た時である。
出アガリ5,200点が条件だった。

瀬戸熊の牌姿

 ドラ

瀬戸熊はリーチを打っていたが、私は上家の手牌にがトイツであるのも見えた。
__難しいな。
そんな私の予想を裏切るように、瀬戸熊は卓上にを舞いあがらせた。
__持っているなあ。

私は初めて瀬戸熊に声をかけた。
「君は5年以内に鳳凰位を取るよ」
瀬戸熊は困った顔で、がんばります。とだけ答えた。

3年後、瀬戸熊は鳳凰戦決勝を大差で千切りながら、最終戦東場で交わされ敗れた。
私が観戦記を務め、私は自分の主観で記した。それは、私なりの瀬戸熊に対するエールだった.
それがいたく瀬戸熊を傷つけたらしいことを、数年後本人から言われて初めて知った..
申し訳ないことをしたとは思ったが、観戦記とは主観を記すものだと今も思っている。

私は王位戦で、もっとひどい、あり得ないような負け方をしている。
最終戦南3局、60,000点以上の差を付けていたトータルラス者に、一度も放銃することなく敗れた。
「7年殺しだな、前ちゃんの負け方は。7年はタイトル獲れないカラ」
荒正義さんからはハッキリそう言われ、実際獲れなかった。

ある意味、自暴自棄にもなったし、苦しんだ。
その間、はっきりと叱り続けてくれたのも荒さんであり、森山さんだった。
もう一度、初めから麻雀に立ち向かってみよう思えるようになったのも、先輩達の苦くて優しい言葉の欠片だった。
可能性のない人に言葉をかける先輩達はいない,,,そう考えるようにした。

ここ10年、歴史的大敗を喫したのは現存する連盟プロでは私と瀬戸熊だけだろう。
私が苦しんだように、瀬戸熊も苦しんだと思う。
もしくは、ビッグタイトルを獲っていない分だけ、瀬戸熊の方が苦しんだかも知れない。
瀬戸熊は私のように自暴自棄にならず、キチンと自分の弱さと見つめ合った。
逃げなかった。

自分の弱さと対峙することは難しい。
それはある意味、自分自身を否定することから始めなくてはならないからである。

麻雀は、一見目の前の勝負や相手と戦っているように見えるが、治まるところは自分との闘いである。
出て行くのも、じっと動かずにいることも、全ては自分自身が決めることだ。
怖がるのも己だし、他人から見ればつまらない度胸におぼれるのも己自身であると私は考える。

瀬戸熊は、昨年のプロリーグ最終戦に、オーラス役満条件のような状態で四暗刻を引きアガリ私への挑戦権を得た。
__本当に持っているなあ。

その直後、私に近寄り囁いた。
「前原さん、僕、ちょうど5年なんですけど・・5年前に僕に言った言葉覚えていますか?」
「エッ、何のことかな?」
無駄に記憶力がいいなあ、この男は__。
そして持っている男はそのまま鳳凰位に就いた。

確かに、瀬戸熊の言うように麻雀の攻めの形、リーチの打ち処、ヤミテンの仕方など似ている部分は多い。
だが、やはり私とは違う。
それは、瀬戸熊は連盟に入った動機からしてまるで違う。
「鳳凰を獲るために入会しました」
彼は入る動機をそう述べている。

明確な、ハッキリした大きな目標目的意識を持った者は伸びがまるで違う。
プロになるため務めていた会社も、A2に昇級した時に辞めている。
退路を絶ったわけである。

辞めることが良いことかどうかは解らないし、その人自身が決めることだ。
鳳凰位を獲った時、瀬戸熊に言った。
「鳳凰位を獲った今、何をすべきか考えています?」
「考えていますし、改めて考えてみます」
「ただ、十段戦だけは5人打ちで良く解らないんですよ」
「そうなんだ・・」
そうこたえてその年の十段戦で、4連覇で通算7期目の私と、鳳凰位、十段位の併冠を目指す瀬戸熊は、共に敗れ去った。

優勝は堀内正人である。
堀内は入会した折、たまたま私が特昇リーグを観戦に行った折、あまりの集中力の高さに驚き、対局後、名刺を渡した唯一の若手プロだった。
それだけ私は高く評価していた。
私も瀬戸熊もそれぞれ全く異なる理由で、自分自身に敗れ、自分を貫き通した堀内の見事なまでの優勝である。

今の堀内の麻雀に対する考え方は独立試行である。
1局の結果は次局に全く影響しない、局単位での最善手を求める考え方である。

私は優勝者予想で、本命印を森山茂和プロ、対抗に瀬戸熊を押している。
それは、森山ほど立体的に麻雀を捉えられる打ち手がこの決勝メンバーにいないからである。
森山が優勝できないケースは、体力とそこから生じる集中力だけである。

立体的な考え方は瀬戸熊も知っている。体力、気力、闘志は瀬戸熊の方が優っている。
立体的考え方とは、麻雀は従属試行なのである。
大昔の天気予報は、独立試行であったらしいが、今は従属試行となっている。
天気予報は雲の流れや月の満ち欠け、大気の流れなどから予測するものらしい。

麻雀にあてはめ、簡単に記すならば、今局の結果が次局にどのように影響するか、それを予測して次局の最善手を求める考え方である。

・雀力アップ 中級 第48回『最善手』 

何が真実かはわからないが、森羅万象、流れの存在しないものはないと私は考える。
言えることは、鳳凰戦、十段戦を複数回優勝したものには、独立試行の打ち手はいないという事実。
そして今回、鳳凰、十段に輝いた瀬戸熊の言葉である。
「ここ2、3年で解ったことは、以前の自分は如何に麻雀を知らなかったということです。」

いずれにしても、瀬戸熊の優勝までの軌跡と対局者を、私なりの観方、解釈で綴って行くつもりである。


 
 
後列:左から 瀬戸熊 直樹、森山 茂和、石渡 正志
 前列:左から 三戸 亮祐、堀内 正人




『それぞれの開局』

1回戦{三戸・堀内・石渡・森山}{抜け番:瀬戸熊}

牌譜再生

東1局、開局は打ち手にとって、とても大事な特別な局となる。
対局者どうしの、お互いの麻雀に対する構え方、タイトル戦にかける想い、姿勢がそのまま出る。
それを、感じ合い、確かめ合う局である。

十段戦の開局は、石渡正志の6巡目リーチから始まった。
このリーチは開局ならば、まずは打つべきリーチであろう。
普段、受け身がちな石渡は、この手はリーチを打たないと語っている、だからこそ十段位への思いが伝わるリーチでもある。

やや、変則的な捨て牌相にも関わらず、立ち向かったのが親番でもある、三戸亮祐。
開局から放銃を怖れずに、真っ向から勝負に賭ける意気込みは買える。
石渡の、やや変則的な捨て牌相にも関わらず、打と打ち抜いて行く。
その中でも9巡目に、ツモで打とするところは緻密な繊細さを感じさせる。
石渡のリーチ宣言牌がである以上、カンもしくはと何かとのシャンポン待ちをケアしたためである。

いきなり、デキ面子からキチンとを中抜きをしたのが堀内正人。
先手をとられたら何処までも頭を下げる打ち方で、昨年度十段を獲得した現チャンプである。
今年もその健在ぶりを窺わせた。

森山茂和も開局から立ち向かう。
着目すべきは、リーチを受けた8巡目、

この牌姿から、石渡のをチーテンにとっていない。
泰然自若__この言葉が似つかわしい。
十段戦全12回戦をまとめ上げるという観点から、この1局を見れば誠に至当な動かずと考える。

1つには森山の配牌から、7巡目までのツモを見て欲しい。
ツモが活きているのである。急所牌を引き込みこの牌姿になった。
ツモが活きている以上、そのツモに身を委ねるのが本手だろう。
頭では解っていてもなかなか難しい。
このに全く反応せず、牌山に真っ直ぐに指が伸びるところに、十段戦に充実して迎えられた証しなのだろう。

結果は、三戸のテンパイ、即リーチ、1発ツモアガリである。
1発役はないが、三戸にとって、この開局のツモアガリは感触の悪かろうはずもない。
後日、三戸本人に確認をとったところ、このツモアガリでこの半荘は悪くはならないだろうと述懐していた。
この考え方も従属試行である。


『三戸の膂力{りょりょく}』

1本場、三戸の大物手がさく裂する。

 暗カン ドラ

テンパイ後、三戸がツモで、本の指先ほど少考したのは、暗カンしたために却ってのマチが傷となることを躊躇ったためである。
三戸という打ち手は膂力の人で、一度アガリ始めると止まらない。

牌譜再生

そのことを一番知っていたのが堀内で、
「とにかく、三戸さんの足を止めないと・・・動いて、さばきにかけました。」
後日、何度目かの取材の折、この局を堀内が語っている。

お互いに、幾度となくリーグ戦などで戦い合った間柄である。
正直、最初、私は現場のモニター越しに観ていたため、堀内のこのの仕掛けの考え方が良く理解できなかった。
何しろ、残っている字牌がしかない。
不安定な仕掛けは、局面が歪み好調者に利するように感じられた。
点で麻雀を見るか、立体図で麻雀を捉えるかの違いなのだろう。

競技麻雀の基本はアガれると感じたならば、大胆にラフに攻め込むべきだと、
そして、アガリが感じられなければ必死になって、それこそ、死に物狂いでオリるべきだと認識している。
ただ、それは基本であって、応用は多種多様である。
それでも、堀内の仕掛け、考え方が誘発した結果であることは事実である。

三戸の5巡目。

私ならばの三色を見ながらの打か、堀内の仕掛けを評価して打か、もしくは、深く構えての打か。
しかし、三戸は難解なパズルを解くかの如き手筋を踏んで、打と構え正解を導きだした。
逡巡、惑うことなくリーチを打ち、4,000は4,200オールをツモアガリ。
三色の手変わりを待たず、躊躇しないところに外側からは見えない打ち手の感性が潜んでいる。

次局、テンパイ一番乗りは7巡目の石渡。

 ドラ

三色の手変わりを見てヤミテン。
この時点で三戸は1メンツもない。

この牌姿から追いつき、追い越してしまう。

 ポン

待ち取りも間違わず、打
同巡、たった1枚しか山に残っていなかった、三戸のロン牌が石渡のもとへ行く。
石渡にとっては、厳しい現実が待っていた。

 

4本場を迎え、三戸の持ち点は62,200点。
私は第1期の十段戦から、観戦するなり、対局者として全て関わってきたが、開局でのこれほどの持ち点は初めての光景である。
三戸の膂力と繊細さと、対局感がもたらした持ち点である。
三戸は親落ちの後東2局もアガリ、この時点で持ち点は70,000点を超えた。

 ポン ポン ロン ドラ

放銃した親番の堀内の牌姿は、

待ちの広さをとるか、打点を取るかは微妙なところである。
堀内のリーチの声と、三戸のロンの声が重なった。
ただ言えることは、堀内はロンの声を覚悟していたことと、後悔はないということだろう。


『風の変わり目』

牌譜再生

東4局、親番の森山は、11巡目に絶好のツモで1シャンテン。

 ドラ

ただし、この時点で高目は山には1枚も残っておらず、安目のでさえ山には残り1枚。
そこに絶好調の三戸からリーチ。

  リーチ

同巡、石渡も追いつく。

自然な形で、打としに待ち取り。

そして同巡、既に4巡目に自身が河に切っているを掴む森山
三戸の捨て牌相は、完全な順子相であるが、丁寧に打とする。

石渡の河が変則的ではあるが、手出しは外側の私からは不自然には映らなかった。
だが、対局者は対局感というアンテナを張り巡らせて戦っている。
石渡の打に、テンパイ気配を感じ取ったのかも知れない。
石渡の変則的な捨て牌相は、当然森山の視野にも入っている。
1シャンテンと読むならば、ここで打っておくべきであり、テンパイと読むならば打ってはならないである。

次巡、石渡は三戸に打ち辛いをツモリ打とする。
森山はこれで放銃を免れた。
そして、次巡、石渡のツモが三戸の現物のをツモ切り、森山はそのを仕掛けテンパイ。
三戸が森山のラス牌のロン牌をツモ切る。
外側から観ると小さな、風の変わり目のように感じた。

5度目の取材の折、三戸が電話口で言った。
「あのリーチはかなり自信があったのですが・・・」
「そうだね」
「でも、牌譜を検証して解ったのですが、麻雀って本当に人が織りなす綾があるんですね・・石渡さんが万が一、強気で来られたら、
森山さんにアガリはなかっただろうし、森山さんが丁寧に打たなかったら、やはり、僕のアガリはなかっただろうし、
もし、森山さんが、を動かなかったら・・そう考えるとその先の結果が知りたくなりますよね。」
「そうだね」
「あれ、森山さんがリーチを打ったらとか、ヤミテンでいたらどうなるかとか考えだすと、ホント麻雀って面白いし、キリがなくなりますね。」
楽しそうに語る三戸君はこの先、強くなるのだろう。

風の変わり目は対局者も感じていたのかもしれない。
システムなのか、鋭敏なアンテナがそうさせたのか、次局、堀内はラス目にも関わらず8巡目にチーテンを仕掛ける。

 チー ドラ

堀内に遅れること4巡、森山が渾身のリーチを打つ。

 リーチ

決まるかに見えた大物手もリーチの同巡、堀内のツモアガリで決着を見る。
森山にとっては痛い逸機であり、堀内にとっては今局のアガリでラス目から微差ながら2着目に浮上したことは事実である。
「戦前から、仕掛けを多用し、主導権をとる戦略は決めていました」そう語っていた。
いずれににしても、森山の風の変わり目を摘み取ったように映った。


『石渡の嘆き』

牌譜再生

「南3局1本場が、私の初日敗着となった全てでした。」石渡はそう語った。
10巡目、堀内の先行リーチが入る。

 リーチ ドラ

堀内の目からみてもマチの-は薄いことは明らかである。
では、なぜ堀内がリーチを打ったのか。
「自分が思う最善の戦略に沿って打ち抜くつもりです」
堀内の言葉通り、このリーチはある意味、ベストの戦略だったのかも知れない。
堀内の注文に嵌ったのが石渡。

 ツモ

ここで石渡は堀内の現物の打としている。
ところが次巡ツモで打としている。

石渡本人が言っていたが、
「ここで、を打つくらいなら、前巡に打つべきだったと__。」

自然な形でこの牌姿になっていた。
結果は、17巡目の引きアガリで今局は終わっていたはずだった。
親満の引きアガリか、リーチを打っての親跳か。

結果からひも解いてもあまり意味はないのだが、それでも初戦とは言え、初戦だからこそ三戸が大量リードしている以上、
追う側の姿勢として、はツモ切って欲しかった。
石渡の中の、麻雀に立ち向かう何かが崩れていたのかもしれない。

森山に視点を移して観る。
森山は常々、麻雀プロは内容が大切と語っている。
堀内のリーチを受けた時点の森山の牌姿

麻雀プロならば、まず方向を見る。
方向とは、誰が一番、その局で先手をとっているかということである。
森山の手に残しているは、堀内の方向を見て残した受け駒なのである。
そして、13巡目、ツモ、打と手狭に構えている。
これは堀内を見ているのだが、一方で、生牌の白を打ち出してきた石渡も評価しているのである。

さらに、16巡目、ツモで当然のことながら丁寧に打としている。
そして、17巡目、ツモで追いリーチをを打つ。
残りツモ1回しかない、それでもリーチを打って行く。
そこが、追う側の姿勢であり、普段、森山の言うプロの内容なのだと思う。

手役作りとかそういうことを述べているわけではなく、何処までも受ける処は丁寧に受けて、攻めるべき処は大胆に攻めるということである。
残りツモ1回しかないからこそ、リーチを打つべき局面なのである。

南4局、石渡がリーチを打つ。

 リーチ ドラ

しかし、アガッたのは三戸。

石渡は三戸のアガリ形を見て何を思っただろうか__。
麻雀は、残酷な結果をもたらすゲームである。
そして、正直な結果をもたらすゲームでもあると思う。

この結果を、たまたまと見るかどうかはそれぞれだが、私も石渡もこの結果は偶然とは考えていない。
少なくとも、一因はこれまでの戦い方にあったと思う。

1回戦成績
三戸亮祐+39.8P  森山茂和▲5.5P  堀内正人▲13.8P  石渡正志▲20.1P




2回戦{堀内・石渡・瀬戸熊・三戸}{抜け番:森山}

『運、鈍、根』

勝負に携わる者が、結果を残すのに大切な要素が運、鈍、根の3つだと言われる。
今の瀬戸熊には、この3つが備わっているように思えてならない。

牌譜再生

開局は、今局も堀内の仕掛けから始まり、9巡目に石渡がリーチを打っている。

  リーチ ドラ

同巡、瀬戸熊にもテンパイが入る。

ここで瀬戸熊は、打と受けの構えの待ち取り。
攻めの構えならば打が手筋だろう。よりはの方が山には濃いからである。
次巡、石渡ので、攻めの手順ならばアガっていた。

瀬戸熊ツモで打。これも受けの手筋である。
堀内の4巡目、打と6巡目の打を見ての在り処を探り、単純にの危険度の比較である。
瀬戸熊は受けの手筋を追って自然な形で、次巡最後のアガリ牌であるを軽々と引きアガッた。

先行リーチが入っている局面で、七対子などの単騎待ちを1度のアガリ逃しがあって、
尚且つ、受け手筋で、さらなるアガリが生じさせることはなかなかに難しいことである。
ラス牌を引きアガる「運」と受けで構える「鈍」と簡単にアガリを諦めない「根」が生み出したひとつの結果である。

十段戦は5人打ちである。
最初に抜け番を選ばざるを得なかった瀬戸熊にとって、三戸の数字は大きく感じたことだろう。
その数字に負けない、受けの手筋を選んだことは大きな評価に値する。
「鳳凰位らしく、自然体でプレッシャーに負けることなく戦えば、結果はついて来ると思います」
戦前の瀬戸熊のコメントである。

その言葉に似つかわしい開局を、ベストな形で迎えられた。
その後も戦況は瀬戸熊がリードする形で進められ、小康状態が続いた。


『三戸の憂鬱』

異変が起きたのは南1局。

牌譜再生

3巡目に、親の堀内が1シャンテン、

4巡目に、石渡から打ちだされたをポンテンにとっていない。
これは、十段戦今シリーズ堀内が取った初めて方法論。

実は、特昇リーグで私が観戦の折魅かれたのは、この堀内の腰の重さだった。
かなり、堀内のクレバーな麻雀を知っている瀬戸熊でさえ、堀内のリーチに安全牌のごとくを打ち出しているのは、
3巡目からツモ切り状態で、リーチを打ってきた堀内の手牌に、があるとは思いもよらなかったからだろう。
昨年は、一度も堀内はこの方法論をとっていないのだから、瀬戸熊も開けられた手牌に少し驚いたかもしれない。

「1回戦のデキの良さから、俺ってこのままイケるんじゃない{十段を獲れんじゃない}」

三戸は後日の取材にそう語っていた。
「そう思ってしまった分、初日に関しては2回戦以降、夢心地というか、腰の座りの悪い麻雀を打ってしまったかも・・・」
そうも語っていた。
三戸は4巡目にを動いている。
「普段なら、好調を意識した時はまず、動かないのですが・・・・」
確かに三戸の目線から見れば、を動かなかった場合、

 ツモ

三元役にこだわった場合は、

 ツモ

もしくは、

  ツモ

堀内が全てツモ切りのため、このアガリ形があったように映る。
もしくは、7巡目、

 ポン

ここから打でテンパイとらずとし、次巡の瀬戸熊のを捉えられなかったことも後悔したのかも知れない。
こういうことは打ち手にとって、次局以降、己の戦い方にブレを引き起こす可能性がある。

実際は、三戸がを仕掛けなくとも、堀内は9巡目にツモ、次巡、を引きアガっている。
ただ、そういう現実の部分は打ち手の側には見えてこない。
そのあたりが打ち手にとって、切ない部分ではあるのだが・・・。

いずれにしても、のポンテンにかけず4,000オールを引きアガッた堀内を称えるべき局面だろう。
堀内のツモアガッたを見た時、じっと眼を伏せる三戸の表情が印象的に映った。


『瀬戸熊の自然体』

初日会場に向かう瀬戸熊と、偶然会場に隣接する公園で出会った。
「昨日はどう過ごしたの?」
「近くの井の頭公園を散歩したぐらいで、目ざまし時計も掛けずに早めに床につき、自然に朝起きられました。
自分でも不思議に思うほど、プレッシャーとか全くなくて。」
「やるべきことを全てやったからじゃない?」
「それは自分では良くわかりませんが、自然体では臨めそうです」

そして1本場、瀬戸熊には珍しく南家の石渡の第一打のを仕掛ける。

これは間違いなく、堀内の前局のアガリに対する瀬戸熊の従属試行から来る、自然体の反射神経の成せる業である。
それだけ堀内の親番を警戒したのだろう。

 ポン チー ポン ツモ

「ツモ、2,100・4,100」
瀬戸熊がここ数年で進化した部分のひとつに、交わし手を捌き手に終わらせず打点を求めるところである。
そして親番を迎えるや、

 ドラ

この配牌を15巡目、小さくまとめることなく、

 ポン  ツモ

この形まで仕上げ切った。
さらに手綱を緩めることなく攻め続け、この半荘、終わってみれば、初戦の三戸のブレイクポイントを上回る、プラス46.2Pを叩きだした。

2回戦成績
瀬戸熊直樹+46.2P  堀内正人▲8.0P  三戸亮祐▲13.8P  石渡正志▲24.4P

2回戦終了時
瀬戸熊直樹+46.2P  三戸亮祐+26.0P  森山茂和▲5.5P  堀内正人▲21.5P  石渡正志▲44.5P




3回戦{瀬戸熊・森山・堀内・三戸}{抜け番:石渡}

『瀬戸熊の試練』

東1局、親番である瀬戸熊が本当に珍しい手順ミスをする。

牌譜再生

7巡目、ツモで瀬戸熊は打とするが、ドラがであり、タンヤオの振り替わりを見ない以上、
三色を視野に入れて、打が手順である。次巡、ツモ、ツモでこの姿形、

このテンパイになっている。
打、もしくは打の三色に構えるかは不明だが、打の場合は瀬戸熊のリーチは間違いないところだろう。
この時点では、他3者、誰も戦う形になっておらず、今局の結果は全く別物となっていた。
-は瀬戸熊のツモ筋にはおらず、流局連荘だった。

牌譜再生

東2局、本来アガリのない堀内にアガリがあった以上、堀内に波が訪れるのは必定だろう。
テンパイ一番乗りはやはり、堀内の7巡目だった。
ツモの思わぬテンパイだったが、

 ツモ  ドラ

悩ましい手牌ではあるが、打、何を切っても間違いではない。
堀内の選択は打

一方、森山の7巡目、

  ツモ

競技麻雀のお手本の如き、打は深い一打である。
先行リーチは森山。が枯れ、親番ということを加味すれば妥当なリーチだろう。

対する堀内は、の暗カンと共に単騎の追いリーチを打つ。
2人リーチの挟撃に合い、たまらず、の中抜きとする。
真っ直ぐに行っていれば、恐らく森山への放銃だった。

16巡順目、瀬戸熊にが訪れた。
私は現物のを抜き打つとばかり思っていた。__いや、瀬戸熊だからこそ信じていた。
十段戦というステージの高さが打たせたなのか、前局の手順ミスが頭の何処かに残っており、打たせたなのか。
それは私にはうかがい知れない処だが__。

いずれにしても、十段戦を勝ちぬくには必ずと言って良いほど、様々な形をした試練の時は存在する。
そこを乗り越えた者だけが、十段位を掌中にすることができる。

牌譜再生

『森山の苦悩』

東3局、森山は5巡目ツモに少考していた。
私はの選択かと思っていたが、そうではなかった。
「瞬間、考えたのは、と打って行くか、と払っていくかなんだよね」
森山は語っていた。

この部分だけは対局者の対局感なのである。
数字というモノも専門家に言わせれば、行きつく処はロジカルではなく、「数覚」という名の感覚なのだそうである。

確かに堀内のはトイツ落としだったし、森山の予測通り局面は進んでいく。
先行リーチは瀬戸熊。追い掛けリーチを打つ森山。

結果は、森山の感覚通り、を払って行けばドラのに辿り着いた。
麻雀プロに切ない処があるとすれば、常に自分の求める麻雀の在り方と感覚とのせめぎ合いの中に身を置いていることである。
結果はともかく、と払っていく森山より、と払っていく森山を好ましく思うのは私だけではあるまい。

『ラスを引き受ける力』

「僕はラス目の時、キチンとラスを引き受けようと考えているんですよ、最小限に抑えようと・・・」
瀬戸熊の言葉である。

それは、数年前、鳳凰戦で負けたことから学んだ経験が言わせる言葉かも知れない。
今局を迎えるまで、持ち点は14,000点のラス目である。
今局のリーチの中身は、1,300点で良しとする考えだと思う。
結果は、望外の満貫ツモアガリだった。

 ツモ

牌譜再生

 ドラ

南2局、慎重に深い森の中で重なるマンズを探す瀬戸熊。
結果は、どう打っても倍満の引きアガリか、跳満の出アガリだろう。
これほどの状態に持って行くのが、瀬戸熊の技術であり、力である。

瀬戸熊のこのアガリを見た時、私は瀬戸熊に天恵を感じ、瀬戸熊が十段戦のひとつの試練を乗り越えたように思えてならなかった。

3回戦成績
堀内正人+27.3P  瀬戸熊直樹+9.3P  三戸亮祐▲8.7P  森山茂和▲27.8P

3回戦終了時
瀬戸熊直樹+55.5P  三戸亮祐+17.3P  堀内正人+5.4P  森山茂和▲33.4P  石渡正志▲44.5P




4回戦{三戸・石渡・森山・瀬戸熊}{抜け番:堀内}

未だ初日、3回が終わったばかりではあるが、トータルトップの瀬戸熊と5位の石渡との点差は100ポイント。
それぞれの点差、立ち位置を意識し、瀬戸熊との距離も考えて戦わねばならない。
十段戦など、長期のタイトル戦に勝つコツの1つには、まずは好位置にいるように打つことである。
その方が無理な戦い方をしないで済む。無理はその打ち手のフォームを崩してしまう。
自分のポイントを伸ばすことも大事だが、瀬戸熊のポイントをこれ以上伸ばさせないことが大切なことである。

東1局、石渡が好調なスタートを切る。

 ツモ

満貫のツモアガリである。
次局も、親番で三戸の4巡目跳満テンパイを交わし、上昇気流に乗ったかに見えた。
三戸の4巡目、

 ポン ポン ドラ

『反応力と対応力』

牌譜再生

そして迎えた東2局1本場、瀬戸熊は3巡目、

 ドラ

ここからを仕掛けている。麻雀はすべからく反応と対応である。
このから仕掛けられるのは、瀬戸熊の反応力の高さである。
この仕掛けに対する石渡の4巡目、

ここで打としているが、打として欲しかった。
同様に、三戸の5巡目、

ここもドラが暗刻とはいえ、打としているが打が手順のように思う。
やはり、対応は大切である。
辛い表現になっているかも知れないが、何しろトータルトップを走っているのが瀬戸熊だけに、キチンとした包囲網を敷くべき処だろう。
いずれにしても、瀬戸熊にとっては大きな優勝への足懸かりの一歩にはなった1局ではある。

牌譜再生

南2局、麻雀は押しと引きのバランスを身体が知っているかどうかが一番大事なところである。
麻雀の勝敗は、ほとんどこのバランスを保てるか失うかで決まる。
11巡目、石渡にテンパイが入る。

  ドラ

12巡目に瀬戸熊、

  ツモ

このがピタリと止まる。
三戸の仕掛けに対応したものか、石渡を見てのものかは解らないことだが、
瀬戸熊の身体が、バランスを知っているということは言える。

森山も同じである。
三戸のポンから、何1つ生牌を打ち出すことなく、ただ、ひたすらオリに向かっている。

地味な譜かも知れない。
ただ、地味な譜の方が、打ち手の本質が浮かび上がるように思える。

この譜の中には、4人の男が向かい合った、両手で抱えられるほどの小さな空間が膨張して行く様が見える気がする。
麻雀は、人と人の戦いのように見えて、実は己というひとりが大きな宇宙のようなものを相手にしている気がする。
丁寧な姿勢がうかがえる1局である。

『地運』

それにしても、瀬戸熊の強さは地運が大きい気がする。
時代に対する物事の見方、処し方、他者との関わり方で、本人の立つ場所{地}の運が向上しているように思える。

初日の最後に、譜をもう1点掲載させていただく。
瀬戸熊の、この6巡目のツモをどう考えるか、そして、この-待ちをどう捉えるかは観た人の受け止め方次第である。

牌譜再生


4回戦成績
瀬戸熊直樹+24.7P  石渡正志+12.8P  森山茂和▲12.1P  三戸亮祐▲25.4P

4回戦終了時
瀬戸熊直樹+80.2P  堀内正人+5.4P  三戸亮祐8.1P  石渡正志▲31.7P  森山茂和▲45.8P

 




 

(観戦記:前原 雄大 文中敬称略)

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