1.引き際の名人になれ
中国で古くから言われる格言の一つに“鑑貌弁色(チエンニピエンシアイ)”という教えがある。
この意味は、人の心の中の動きは、動作、声にまで現れるといったものだ。
俗に、テンパイたばこと言われるように、テンパイするとついたばこに手をかけてしまう人がいるが、こんな動きから識別せよということだ。
ちなみにこのクセを出す人の例だが、女優の岩下志麻さんはテンパイが近づいてくると、ときどき首を傾ける癖があり、これが出たときは危険信号なのだ。
また女優の山本陽子さんはテンパイしたとき、眼差しがトロンとして焦点が合わなくなってしまうからなんとなく分かる。
実戦の中でよく見かけることだが、普段はよくしゃべりながら打っている人が、
急にだまりこくって打ち出すというケースがあるが、こんなときは大物手がついているときだ。
例えば、こんな人が をポンして出たら、 、 といった牌は切り出さないことだ。
図A 東3局、南家 ドラ
         ポン  
突っ張って出るばかりが麻雀ではない。
相手が大物手と察知できたときは必要牌をにぎり込み、オリる、引き際の名人になれという意味である。
2.麻雀とは己との勝負だ
この格言は戦術的なものではなく、麻雀を打つときの心構えを言っているものである。
麻雀を、牌との勝負だと思っている人が多いようだが、そう思っている人は負け組の人である。
負け組の特徴は配牌から一番早いテンパイは何かと考え、これに向かって一直線。
テンパイしたら、後はアガるかどうかは運まかせ、ツモまかせ。
結果はヤマに聞いてくれ、というタイプが多い。
ツキがあるときはこの打ち方でよい。牌の方からアガれ、アガれと押しかけてくるからだ。
だが、いったんツキに見放されると、もうどうにもならなくなる。例えば、図Bの手。
図B 東4局、東家 ドラ
            
ドラ2丁で役無しのテンパイである。そしてオヤ。
ほとんどの打ち手はリーチに踏み切るはず。私もそう打つ。
だが、これをツモってニコニコする打ち手はちっとも怖くない。
図C リーチ者の捨て牌
     
 
警戒すべきは、C図でのリーチの捨て牌に をツモ切りたいと念じている打ち手だ。
それだと が釣り出せるからだ。
前者は牌と、後者は人と勝負しているのである。
3.悪配牌はファン牌のくっつきを
これまでの戦術書の多くは、最初の配牌で孤立牌が多い場合、いわゆる悪配牌の手は初手から勝負をあきらめよ、死んでおけと説いたものが多かった。
悪手のときには最初からオリておれば大ケガはしない、という想定のもとに言われた言葉ではある。
図D 東4局 東家の配牌 ドラ
             
だが、実際問題として、オヤでこの悪配牌を持ったとしたらどうだろう。
半荘戦で後半に入って、しかも負けていたら、配牌が悪いといってもここであきらめてしまうのはどうか?
誰だって連荘に向かって進みたいはずである。
例えば、マイナスのオヤが図Dの配牌を持ったケース。お世辞にも良い手とは言えない。
見るからに悪手ではある。しかし、このままあきらめるのは早計なのだ。
悪手には悪手なりの打ち方がある。
図Dの場合、第一打に何を切るかが問題。
孤立牌は、 、 、 、 とあるが、この内のどれを切るかだ。
このようにペンチャンや、カンチャンが多くどうしようもない手は、 とか のようなファン牌を大切にする。
ファン牌はトイツになり次第、これをポンしてアガリに結びつけられる。
悪配牌はファン牌のくっつきで切り抜けよという意である。
4.親不幸して勝つ麻雀
麻雀は、オヤ1人と子3人で争うゲームである。オヤは連荘を狙い、子は共同でオヤ落としを狙う。
オヤは、子のアガリの5割増しで連荘は無限、だからこそ連荘がトップへの条件とも言われている。
勝負事はすべてオヤに有利なようにできている。
だからオヤのときに勝つのが必勝法でもあるわけだ。
われわれが子供の頃は生みの親にしろ、育ての親にしろ、親不幸はすべきではないという論理で胸がいっぱいだった。
だが、こと勝負ごと、麻雀においてはオヤに逆らって親不幸な戦い方をしなければ勝てない。
オヤリーチといえどもケンカすべきときはせよとういう意味である。
図E 東家リーチの捨て牌
     
   
例えば、オヤが、図Eの捨て牌を残してリーチ。ソーズ切りなしの捨て牌だ。
図F 南家の手 ドラ
            
南家が図Fの1シャンテン。ドラが だけにソーズは危険に見える。
しかし、ここでは親リーチに怖気づかないで、 をチーして打 と強打して行くことだ。
オヤが連荘していて、自分がやらなければ勝負の決着がつきそうもないときには、死んでいてはダメ、積極的に親不幸すべきなのである。
5.上下三色なまくら打法
三色同順、いわゆる「サンショク」という役だが、現在のルールにおいては非常に有効な手役だと言える。
下手にフーロさえしなければ、相手に読まれにくいし、タンヤオやピンフなどの複合役もつきやすい。
三暗刻、三色同刻、ホンイツなど、同じリャンハン役との難易度を比べてみてもこれは分かる。
現代流の麻雀は、三色役を上手く作ることが、即、勝ちに繋がるといっても過言ではないほどだ。
図G 東3局 西家5巡目 ドラ
            ツモ
図Gの手、5巡目に ツモ。さて、この場面、君なら何切りか?
234の三色678の三色と、三色の狙い目が上下に大きく離れている手であるだけに迷う手ではある。
決め打ち好きな雀士なら打 としがちである。
つまり、234の三色1本に決め打ってしまうわけだ。確かにこれだと2シャンテンになる。
しかし、ここは打 と出て3シャンテンに構えた方が手が広いし、678の目も残る。
いわゆる“なまくら”に打つわけだ。
図H 10巡目の変化形
            
この後の実戦でのツモは、6巡目 ツモで打 、8巡目 。
10巡目、 ツモで図Hのテンパイで西家はリーチ。
“外側での三色手はリーチに向かえ”セオリー通りの攻めだ。
“上下三色なまくら打ち”この格言の意味は手役の取りこぼしをするなと教えたものなのである。
執筆:灘 麻太郎 文中・敬称略
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