前原プロと僕の住まいは同じ沿線にある。
連盟行事の帰り道、車内で2人きりで話す事がたまにある。そんな時は、9割がプロ連盟が今後どうあるべきかという事。
過去の話やプライベートの話は1割くらい。26期、27期鳳凰戦の事を話す事もほとんどない。それはなぜか。
答えは、話をあらためてしなくても、お互いに相手の答えが解っているから。
究極の闘牌をした者同士がわかる感覚。
板川プロとも、26・27期と同卓させて頂いた。
板川プロと2人きりで話しをした事はないが、同じ事が言える。
結果は本当にたまたまであって、大事なのはいかにその限界に近い戦いが出来たかどうかという事。
最近の対局では、負けた時は、結構負け方に納得している自分がいる。
ただ、どうしても後悔している1局というのは、なかなか消えない。
それは過去にも述べてきたが、今日は後悔の1局を1つ紹介したい。
第3回天空麻雀 男性大会決勝2回戦
ここまでの経過を少し説明すると、天空麻雀決勝は2回戦の戦い。
1回戦は、森山プロが48,400点のトップ。2着が僕の44,400点。佐々木プロと滝沢プロは1万点前後の3、4着。
つまり、最終戦は、ほぼ僕と森山プロの着順勝負。
森山プロに先行されるも、何とか喰い付き5,900点差の2着目で迎えた南2局。
西家の佐々木プロから終盤リーチが入る。
捨て牌と状況から、どう見てもマンズの一色手のリーチ。
超特大トップをとらなければならない佐々木プロとしては、森山プロと僕の争いを汚さない為でもあるリーチ宣言。
そこへようやく最後のツモ番で、僕の手牌にテンパイが入る。
ツモ ドラ
打 とすればテンパイ。ツモ番はない。まず、僕の考えなければならない事。
「 」で佐々木プロに放銃した場合、森山プロの優勝はほぼ決まってしまう。
もう1つは、ノーテン宣言となる安全牌を抜いた場合、親番はなくなり、残り2局で満貫以上をツモアガリしなければならない。
この時、舞台裏では、運営のふたりの間でこんな会話がされていた。
山井プロ「セトさんは、テンパイとりますよ」
黒木プロ「いや、セトちゃんはオリるよ」
たしかに普通の場面なら、通っていないマンズと字牌をこの場面で切るのはあり得ない。
ただし、勝負として見た場合、「 」は打って通さなければならない場面でもあるのだ。
この時、僕の心はこうだった。
「お前は を通してきたから、この世界で生きてこられたのだろう。打てよ 。・・・・しかし、この はかなり行きづらい。
あとの2局にかけてみてもいいのではないか・・・」
僕は安全牌の を抜いた。
開かれた佐々木プロの手牌を見て、負けを覚悟した。
「 」が当り牌だったなら、僕にチャンスが巡ってきたかもしれない。でも違っていた。
自分を呪った。究極の話をするならば、いちかばちかでなく、「 」が通る確信を持って、冷静に「 」を抜かなければならない。
そこが僕の目指す、最終地点である。
「 」を打たなかったのは、プロとして正しい姿勢なのかもしれないが、僕のスタイルでは、通る牌なら打たなければならない。
ロン牌なら止めなくてはならない。
チャレンジャー的立場の僕が、楽な道を歩いて、森山プロに勝てるわけがなかった。
その後、僕は森山プロに教えを請うようになる。
そして、ようやく少しずつ自分のスタイルを確立していくこととなる。
少し話しを変えよう。
近年、ネット麻雀の普及により、全てのケースがデータ化されてきた。
こういう場合はこうした方が得。こうすると損というように。
それに伴い、流行だした1つのパターンが、
ドラ
こういった手牌で早い巡目だったら、即リーチをした方が得という話がある。
僕もリーチをする場合もあるが、手変わりを待つ事の方が多い。手変わりというより、様子見である。
べつに否定するわけでもないが、何でもかんでも即リーを打つ人は、「点」でしか麻雀を見ていないようにしか見えない。
リーチをするにしても、その先を見据えていなければいけないと思う。
第27期鳳凰位決定戦 1回戦
8巡目ツモ ときて、僕は以下のテンパイ。
ドラ
ドラの 引きの - マチになるか、下家の沢崎プロの動きによってはオリるかの選択を残す為のダマテン。
10巡目、ツモ ときて、打 のリーチ。
リーチ
この形で腹をくくった。森山プロに教えられた、「状況と手牌の妥協点」である。
カン では、腹をくくれなかったが、ドラの 単騎なら、打点もマチも行けると踏んだのだ。
こういう手牌の変化を18回戦通して戦った。
べつにそれが正しいとは思わないし、言わない。でも、プロとして生きていくなら、局面を見ると同時にその先を見て欲しい。
俗に言われる愚形先行リーチが有利な場面は、僕も遠い昔から知っていたし、使っていた。データとしてそろう前からだ。
そして、その戦略に限界があるのも経験から知った。もちろん、僕より先輩方もそんな事は百も承知なのである。
第27期鳳凰位決定戦 9回戦
この手牌、「 」を2枚ともスルーしている。これも、局面的に「見(ケン)」した為だ。
べつにこの局は、アガリが欲しいわけではなく、南2局の親番でいかに手牌を入れるかと、
自分の動きで相手に手牌を入れる事を避けるかを考えていたからだ。
もちろん、一流プロの中でも、鳴きを得意とするプロは仕掛けていく人もいる。
だた、そういった人達は、防御(読み)と展開を見る力が僕よりずっと優れているからだ。
若いプロ達で、こういった形で鳴かない事によって、その後どうなるかをしっかり研究してから、鳴いて行って欲しい。
今の若いプロ達は、1枚目を鳴くか鳴かないかの議論から入っている。そこには鳴かないという選択肢がない。
プロならば、1枚目を鳴いた結果、2枚目を鳴いた結果、2枚とも鳴かなかった結果を肌で感じてから、スタイルを確立してもらいたい。
もちろんここで言う「結果」とは、その局単位の結果ではない。
「その戦いの結果」である。
これは数値ではデータ化できない。それこそ、何千、何万の経験から身につけるものなのだ。
南2局、4,000オールを引いて、トップを取ったのは、たまたまかもしれない。
でもこういった麻雀が、僕が長年積み上げてきた「信念」からくるものなのも事実である。
どんなスタイルであってもいいと思う。
ただ、プロにはプライドと芸術性がなければ駄目だと思う。
僕はプロとして日本プロ麻雀連盟の伝統の麻雀を打って行きたい。
それが王道なのだから・・・・・
第27期鳳凰戦の軌跡 〜挑戦〜へ続く。
執筆:瀬戸熊
直樹