日本プロ麻雀連盟
プロ連2
日本プロ麻雀連盟HOME 日本プロ麻雀連盟のご案内 牌譜データサービス ロン2のご案内 タイトル戦のご案内 インフォメーション プロ雀士情報 雀力アップ
ホームプロ雀士コラム > 姿勢の人

プロ雀士コラム

姿勢の人

 


「僕は少なくとも前原さんより連盟を愛しています。」





今から4、5年ほど前のことである。
連盟の対局が終わり、会場の踊り場に私を呼び出した紺野真太郎君が、真剣な眼差しでその言葉を告げた。
「それで?」
私は言葉に詰まり、そう尋ねた。
「いえそれだけです。」
そう言って、紺野君は私から離れた。
当時の私は、それだけ堕落していたんだろうと思う。

今年の初め、当時自由が丘に住んでいた私の巣に、紺野君を招いたことがある。
たまには一緒に食事でもしようという軽い気持ちからだった。
ところがその集いは、思いの外センシティブな方向に話が行ってしまった。
「要は、あなたは今堕落していると思う。」
私は紺野君にそう告げた。
勿論、麻雀においての話である。

紺野君は連盟に入会して間もなく、私に退会を申し入れてきた。
彼のお母さんが心臓病で倒れ、一人息子である紺野君が生家である静岡に戻り、養いたいとのことだった。
そういうことならばそうすべきだよ、僕はそうこたえた。
しばらく経って、紺野君から連絡があった。
−−母親を静岡から東京に呼んで、やはり麻雀プロを続けていきたいと思います。
−−生活の目途は立ったのか?
−−それはなんとかやっていけそうです
当時紺野君をひいきにしている方がいて、小さな雀荘を彼に任せるという。それで生活を成り立たせようということだった。
言葉にすると簡単なようだが、当時の彼の事情を考えれば、とてもあやふやで不安定な生活を余儀なくされるだろうと思っていた。
当然そのことは本人も分かっているはずで、ただそういう生活の背景を乗り越えた部分で麻雀プロでありたいという情熱と姿勢が彼をその方向に導いたのだろうと考えていた。

その情熱や姿勢を表すかのようにリーグ戦などの対局でも好成績をあげ、とんとん拍子にA2まで昇ってきた。
勿論姿勢や情熱で昇れるほどリーグ戦も易しい戦いではなく、そこには技術力・雀力・勝負力、すなわち麻雀力が伴うのは至極当然のことである。

以前も記したが、彼は体勢を読む力が飛び抜けていたのである。
7,8年前の研究対局で、次局誰が和了るかということを、東3局あたりから各次局の始まる前に紙片に記すことをやり続けていたことがある。
これは如何に麻雀を平面で捉えるのではなく、立体的に見ることが出来るかという力を養ってもらう為にやっていたことである。

これを雀力の一つとするならば、当時の若手の中でも紺野君は突出した力を持っていた。
ギャラリーの立場になった時の正解率は、楽に80%を越えていたと思う。
更に言うならば、次局誰が何点の手を和了るということまで彼は予測する力を持っていた。

ただそれはギャラリーの側に回った場合の的中率であって、対局者の側に回ったときの的中率はかなり低かったように思えた。
このことは無理なからぬ話で、対局者の側に回った場合に客観的に自分の置かれている立ち位置を判断するというのは、非常に困難なことなのである。
なぜならばそれは、人が持って生まれた感情というものがあるからである。

それだけ自分自身を客観的に見るということは難しい行為なのである。
ただ当時思ったのは、プロになりたてでそこまで出来るのであるから、ごく近い将来自分自身を客観的に見る能力を身に付けてくれるのではないかと、確信に近い期待を持ったことはあながち間違いではないと思う。
また本人自身、よく努力も積み重ねていたように思える。
それは、傍から見れば覚悟と言った風に見受けられた。
本人自身がそういう部分を必死になって積み重ねてきたからこそ、私に向かって冒頭の言葉を伝えたかったのだろうと思う。

「僕は少なくとも前原さんより連盟を愛しています。」
この言葉の裏側には、前原さんもっときちんと連盟とそして麻雀に向き合って下さい、おそらくそういった類の思いが高じてその言葉を言わせたのだろうと思う。

そして今年の初め、彼を家に招いた時に言った言葉も、堕落しているということを告げたかった訳ではなく、もっと良くなって欲しい、お前ならばもっと良くなれるはずだろうという気持ちが言わせたのだろうと思う。

その時の紺野君の返事が、前原さんの仰りたいことはよく分かりました、その答えは言葉ではなく行動で証明したいと思います、というものだった。

そして紺野君は、まず生活環境を整えることからやり始めた。
7月に入った頃から、毎週木曜に行われている若手を中心とした勉強会にも積極的に参加できるまでの形を作った。
「誘われて来て本当に良かったです。それにしても石田純平君というのは凄い打ち手ですね。とても刺激になります。こういう機会がなければ彼の麻雀に触れる機会もなかったかもしれないし、自分を向上させるいいきっかけになったように思います。」
「まあ良かったじゃない。理由の一つは、石田君とあなたの麻雀の根底の部分がとてもよく似た形だから魅かれたのだと思うよ。」
「ああ、そうなのかも知れませんね。もともと分かってはいたのですが、自分の進むべき麻雀の方向が、より鮮明に見えた気がします。それと、この集まりが思った以上にいい集いで、自分の力も伸ばすチャンスだと思うし、他の若い人の麻雀も伸びるいい環境だと思います。それは、麻雀というのは人がやるゲームであり、十人いれば十種類の麻雀観、千人いれば千種類の麻雀観があっていいものだと思います。ただ大切なのは、自分の麻雀観にこだわるのは大事なことかも知れませんが、固執するのはよくないことですね。こういう場面が、それぞれの人が色んな打ち手の麻雀観を取り込めて大きく羽ばたける一つの機会には間違いなくなるのではないかと思えます。その時にネックになるのがやはり『素直さ』だと思います。謙虚さという言葉と置き換えてもいいかと思います。まあいずれにしろ、この集まりには参加し続けていこうと思っています。」

以前にも記したことではあるが、人は人によってしか変容していかない。

私はいつもそう思っている。
例えば紺野君が私に向かって投げかけた言葉、そしてまた今年の初めに私が紺野君にぶつけた言葉、それらをどう受け止めるかは、その人自身のちからである。
受け止め方を誤れば、麻雀の力がそこで止まるだけでなく、その人の人間関係、その人の人生までをも悪い方向に変えてしまう。
逆に言えば、受け止め方が良ければ、その人の麻雀の力もどこまでも伸びるだろうし、その人の人生も豊かなものになるように思えてならない。

私も正直に言えば、何度か麻雀プロを辞めようと思ったことがある。
その時辞めないで済んだのは、その時々に係わっていた人の言葉だったり、麻雀に向かう姿勢であったりした。

15年ほど前、私は競技麻雀プロを投げやりになりかけた時があった。
その時は王位戦で早々と予選落ちし、隣の卓で戦っている光景をそれとなく見た時のことだった。

オーラスを迎えた場面だった。
そのアマチュアの人は懸命に打っていた。
正確に記せば、懸命に降りていたのである。
一打一打熟考を重ね、懸命に降り続けていた。
流局し、無事終局を迎えた時、晴れやかな笑顔をその人は見せた。
「無事通過されたんですね。おめでとうございます。」
愚かな私は、見も知らぬその若者に、そう言葉を送った。
「いや、僕は落ちました。もともと目が無かったので、周りに迷惑をかけたくないから懸命に降りていただけなんです。」
少し照れたような表情で、彼は言った。

本当にありがちな何でもない光景かもしれない。
でも私がその時期麻雀プロを辞めないですんだのは、その名も知らぬ若者のおかげである。
その時思ったのは、
「競技麻雀って、いいものなんだな。」
不思議なことだが本当にそう思えて、麻雀プロとして自分自身を恥じた。
もしあの場面に遭遇していなければ、私は間違いなく麻雀プロを辞めていただろうと思うし、全く別の世界で生きていたと思う。

その場面に遭遇したことが良かったのかどうかは定かではない。
ただ言えることは、その場面に出会って今の世界で生きていることを一度も後悔したことはない。

紺野真太郎君があの時静岡に帰ってまた別の人生を選択する道もあったかと思う。
しかし、今の選択した道を後悔したことは、私と同じで、一度もないように思える。

私はツキと運とは、形は似ているが、全く別のものだと思っている。

例えばツキというものは、木の下でツキという名の果樹の実が落ちるのをただじっと待っている行為だと思っている。
運というものは、同じ木の下でも、ツキという名の果樹の実が落ちるのを待っているだけでなく、手を差し伸ばすという行為に近いと思う。

それは、運を掌中にする為には技術力だけでなく、姿勢が伴うと言うことである。
対象は麻雀であっても人であっても同じことだと思うのだが、何かを愛するということはその人の持っている姿勢の表れである。
突き詰めれば麻雀というゲームは、ツキという曖昧模糊なものに姿勢という確かなものを付け加えていけば、運というものに変わっていくものだと思う。

紺野真太郎くんは現在34歳である。
入会して間もなく新人王を獲って、A2まで昇ってきた。
そして研修会で講師として懸命に受験生に学んでもらおうと努力している。

これらのことは、確かに評価の出来ることの一つではある。
しかし私の中では、この程度でいいのかという気持ちは間違いなくある。

「僕は少なくとも前原さんより連盟を愛しています。」

その言葉が本当であるならば、そろそろ確かなものを見せてもらいたいものである。

とりあえず、30キロほど体重を落とさないとまずいんじゃないかい。






文責:前原 雄大 (執筆:2007年11月1日)

ページトップ
麻雀格闘倶楽部 好評稼働中!
モンド21麻雀プロリーグ
GyaOバナー白
モンド21麻雀プロリーグ
麻雀格闘部呂倶
日本プロ麻雀連盟メールマガジン
トップページ牌画の利用について引用・リンクについて広告についてよくあるご質問お問い合わせサイトマップ
日本プロ麻雀連盟
Copyright 1997-2010 Japan Professional Mahjong League. All rights reserved.
No reproduction or republication without written permission.
ma-jan.or.jpの記事・写真等の無断転載はお断りします。